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彼女は「怪我をしたくせに、何を言っているんだ?」というような表情をしていたので手の平を彼女に向け、大丈夫だという事をアピールする。
このままここに居られたのでは、緊張でマトモな料理はできない。
魔具に依存している事を知られて私の料理技術は凄くないという事がバレてしまったら、もう食べに来てくれないかもしれない。
その点で言えば指を切断した時点でアウトかもしれないのだが…。
「席に戻って待っていてください」
再度テラス席にて待っていてもらう様に言い、彼女がキッチンから出た事を確認する。
切断した筈の指を軽く引っ張ってみたが何も不自然な点はない。
「それにしても本当に凄い」と思いつつ、業務用冷蔵庫から瀬戸内レモンを取り出す。
せっかくならば、新作メニューは一部レシピを変更し、これを使ってみよう。
刻んだイタリアンパセリに、食塩を少々振りかけて、エクストラバージンオイル、おろしニンニクなど…。
そこに彼女の好物である瀬戸内レモンの汁と刻んだ皮を少しだけ多めに入れ、混ぜていく。
酸味を効かせたソースになるが、喜んでくれるに違いない。
「彼女を想って作っているのだから、魔力を補充したこの最強の魔具を用いて美味しくならない筈がない」
一人で納得しながら、料理を楽しむ。
彼女が好きだと言ったものは「瀬戸内レモン」と「讃岐サーモン」だったが、普通の人なら「レモン」「サーモン」とこたえるのではないだろうか?
そういう意味では頭に産地まで付けているというのは、そうとうなグルメに違いない。
調理魔具の開発に長く関わっている大魔術師なのだから、物凄いグルメであったとしても何ら不思議ではないだろう。
いくら考案中のメニューとは言え、彼女に中途半端な料理を振る舞う事は私自身許せる事ではなかった。
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