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しかし考えようによっては、そんな彼女が美味しいと言ってくれれば、店で出すのに何も問題が無いという評価にも捉えられる。
このリベルタを気に入ってくれるというのなら、新しいメニューを開発する度に味を見てもらうのも良いかもしれないとさえ思えてきた。
「お待たせしました」
まだ店では出した事のない新メニューばかりだが、彼女の口に合うだろうか?
「美味しそうですね…」
どうやら、見た目や香りは気に入ってくれた様だ。
「こんな料理、メニューにありましたっけ?」
流石だ、試作中のメニューだと気が付いてくれた。
「あ…いえ、店では出していません。
今考案中のメニューですので、味見してみてください…美味しくないかもしれませんが…」
そう言ってみたが私としては、かなりの自信作である。
「あなたが作っているのです、美味しくないはずがないですよ?」
嬉しくなり、自然と笑顔になる。
「そう言ってもらえるのは大変嬉しいのですが、美味しいと思ってもらえるなら、それはあなたの魔具のおかげです。
私は料理中に指を切断させてしまうようなド素人ですよ…シェフ失格です」
でも、ずっと無能と言われ続けた私に料理という存在理由が生まれたのは【百合沢静香の調理魔具】のおかげだ。
つい本音が出てしまったが、こんな大事なお客さんにお出しするときに怪我をするなどシェフ失格以外の何ものでもない。
「いや、それは…」
否定しようとしてくれている優しさは嬉しいが、そんな言葉に甘えて現実から目をそらしては話にならない。
ダメな私は、もっと勉強して腕を上げなくては彼女にも世間にも飽きられてしまうだろう。
指を切断するという大失敗を目の前で披露してしまって彼女も呆れているだろうが、衛生管理を徹底している事だけは分かって欲しい。
「でも安心してください、私の指は料理には入っていませんので…」
彼女は苦笑いし、ため息をつく。
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