第六話 大魔術師と注文の品

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 緊張もあって言い方を間違えたが、それに気が付いた時には既に遅かった。 「普段はこんなミスはしないんですよ…ただ、あなたが食べてくれるかと思うと緊張で手が震えてしまって…」  言い訳じみていて、余計に恥ずかしい。  これ以上この話は止めた方が良いと思った。 「そう言えば、バロティーヌって確かフランス料理ですよね?  このサルサベルデをかけて、いただけば良いのでしょうか?」  話題を変えてくれてありがとう。 「フランス料理だとよくご存じですね、イタリアンがメインにはなりますが一応創作料理店って事で…場合によっては中華や和食だって作れますよ?  サルサベルデはバロティーヌにかけて召し上がってもらえるように作ったのですが、一応味見してもらってからの方が良いかと思います」  名前や使った食材でイメージを持たず、まずは見た目、香り、味で楽しんでほしかったためにわざと何も言わずに出した。  にもかかわらず、彼女は料理名を述べ、それがフレンチだと言った。  リベルタに来てくれる客はメニューを見て料理名を知ったという人が大半で、特にカタカナの名前はイタリアンなのかフレンチなのか非常に難しいともよく言われる。  百合沢静香は本当にグルメなのだろう。  そんな事を言われて一気にハードルが上がってしまったような気がしているのだが、私の料理は本当に彼女の口に合うのかと不安になってきた。 「美味しい…。  何処がとは言えないのですが、何だかいつもいただくカルパッチョの味に雰囲気が似ている気がします」  本当に驚いた。 「百合沢さん、味覚凄いです…よく分かりましたね。  メインはイタリアンパセリなのですが、そこにいつもカルパッチョのソースに使う瀬戸内レモン、今回は汁と皮を混ぜ込んであるんです。  あとは、おろしニンニク、アンチョビ、ケッパー、白ワインビネガー、それから…」
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