第六話 大魔術師と注文の品

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 彼女の好む「瀬戸内レモン」は生産者のこだわりが凄いのだ。 「世界で見ると、シチリア産のレモン果汁が結構日本人の味覚に合う様です。  瀬戸内レモンはそれも考慮されて作られているので、日本人に受け入れられやすくてイタリアンにも相性が良いのでしょうね…」  彼女はバロティーヌにサルサベルデをかけて、一口。  無言だったがその最高に幸せそうな表情で、気に入ってくれたという事は明白だ。  思わずガッツポーズをしてしまう。  続いてアクアパッツァ、同じくノーコメントだったが嬉しそうに食べてくれる彼女を見るとこちらも幸せになった。 「ありがとうございます、あなたの料理は本当に最高です。  いつも元気と幸せをもらえます」  彼女は完食し、私を褒めてくれた。  そんな事を言われると物凄く照れくさい。 「では次はこちらの番ですね…」  上品そうな小さめの木箱をテーブルの上に出し、私の方を向けて開ける。  中には銀でできたスプーンとナイフ、フォークの三点セットが綺麗に並んでいる。 「これが今回あなたに頼まれた魔具【ボナペティート】です」  こんな洒落た名前を付ける彼女のセンスは好きだ。 「ボナペティート」とはイタリアンでよく耳にする言葉…イタリア語で「どうぞ召し上がってください」という意味で、客に料理を出す時に使う。 「この魔具には、私の魔力を封じてあり、基本的には三つの効果を持ちます。一つ目に嫌いなものが食べられる様になります。  そして二つ目に使用者の好みの味を生成します。  更に三つ目に愛情のこもったものほど美味しく感じられる様になります。  息子さんの良太君は、渚さんの料理を「不味い」と言って食べてくれない訳です。  一度「不味い」と思ってしまった事で「嫌い」という認識に変わり、食べてはくれなくなってしまっています。  まずは「嫌い」と認識しているあなたの料理にも手を付けてくれる様にしましょう。
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