第六話 大魔術師と注文の品

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 そして、口にした料理を彼の好きな味に変えます。  ここまでで、食べてくれる様になるでしょう。  渚さんが彼に不味い料理しか作ってあげられないのは「母親らしい事をしてあげられなかった」と言う負い目を感じているからだと思います。  その原因は私の調理魔具かもしれませんが、逆に言えば心をこめて作った料理は美味しくなるという事でもあります。  しかし、不味いと言って食べてくれない料理に心をこめることなどできないという悪循環に陥っている訳です。  そこでこの魔具を使ってみてください。  美味しいと言って食べてくれる様になれば、彼の事を想って料理できるようになるでしょう。  そうすれば愛情のこもったものが出来上がり、より美味しいと感じてくれる様になる筈です。  そうなったら、この魔具を使う事を止めてください。 渚さん自身が彼を想って作っている料理ですから美味しくない筈がないですよね」  なるほどと納得できる説明である。  私は彼女の差し出した魔具を受け取る。 「でも、できる事なら徐々にでも良いと思いますので息子さんにだけは魔具に頼らない普通の調理器具で料理をしてあげて欲しいですけどね…。  おふくろの味という言葉がある様に、母親が作ってくれる料理は特別なのですよ。  母親らしい事をしてあげられなかったと思っているなら、今からでも遅くないと思いますので、息子さんとしっかり向き合ってみてはいかがでしょうか?」  確かに彼女の言う通りだ。  今までの私は自分の存在を証明するために必死になり過ぎるあまり家族の事なんて何も見えていなかったのだと思う。  彼女のアドバイス通り、息子とのあり方を考え直す良いきっかけかもしれない。  親子の関係が修復されるのならば、そんなに嬉しい事は他にない。
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