第八話 魔具の力量

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第八話 魔具の力量

 彼女が作ってくれた【ボナペティート】は最高の魔具だった。  受け取った翌日の夕食時にさっそく使ってみたが、普段なら食べてくれない筈の料理を良太は美味しそうに完食してくれた。 「これは本当に凄い」とお礼の連絡を入れ、彼女と少し話した。 「喜んでもらえて良かったです。  では私も協力しますので、その魔具を早く止められる様に頑張っていきましょう」  力を貸してもらえる事も、息子が私の料理を食べてくれた事も本当に嬉しかった。 【ボナペティート】を使い始めて一ヶ月程が経った頃に彼女から再度連絡があった。 「そろそろ普通のスプーンに持ち替えさせてみてはいかがでしょうか?」  その頃には私のメンタルもだいぶ落ち着き、「彼に美味しいと言わせてやるぞ!」と思える様になっていたので、彼女の言う通り挑戦してみる事にした。  しかし話はそう簡単ではなく「息子に美味しく食べてもらえる料理」というのは今まで上手く行かなかった事もあって、物凄いプレッシャーだった。  包丁やフライパンを持つ手は痙攣し、「不味い」という彼の言葉が何度も頭に響いた。  結局は料理を口にしてくれても吐き出し、無理に食べさせても体調を崩すという結果となった。 「まだ、時間はあります。  落ち着いて一緒に考えていきましょう」  そう言ってくれる彼女に救われ、私は甘えた。  しかしその後何度試しても上手く行かず、普通のスプーンやフォークに持ち替えるたびに「不味い」と言っては吐き出した。 「不味い…不味い…不味い…不味い…不味い…不味い…不味い…不味い…不味い…不味い…不味い…」  もうダメだ…こんな方法では上手く行かない。  そんな風に考えてしまった私は焦り、ストレスもピークだったのだと思う。  第三者が見れば何でもない事かもしれないが、シェフでありながら家族に認められないという複雑な気持ちに押しつぶされそうになっていた私は絶対にやってはいけない方法に手を出してしまった。  そう、リミッターの解除だ。  この魔具を渡された時にも彼女から注意を受けた通り、使用者が魔術を知らない一般人の場合は体にかかる負担が大きい。  そのため、彼女の封じた魔力が一定以上放出しない様にシステム上のリミッターを設けている。  私がそのリミッターを解除し、設定よりも多くの魔力を彼に流そうというのだ。  嫌いだと思っているものを、より大きな力で食べられる様にして、より大きい力で美味しいと感じてもらおう。  その分使用者に大きい負担がかかるが、効果のない方法を長々と行うより、さっさと終わらせた方が楽に決まっている。  本当は早くストレスから解放されたいという自分の為だったが、結果が良ければ理由などどちらでも良いに決まっている。
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