9人が本棚に入れています
本棚に追加
/29ページ
私はいつもの様に夕食を用意し、息子に出す。
リミッターを解除した魔具を使わせる様になって一ヶ月程が過ぎただろうか…。
一週間に一度程のペースでスプーンやフォーク、ナイフを普通のものに変えているが、吐き出す事も体調を崩す事も無くなってきている。
彼女の魔力が彼に浸透しているに違いない。
この調子でいけば、これを使わなくてよくなる日も近いだろう。
そうすれば彼とももっと仲良くできるだろう。
今まで母親らしい事ができなかった分、たくさん愛情を注ぎ、たくさん可愛がってあげよう。
そんな事を考えながら息子の方を見ると、今日も完食してくれているのが分かった。
「美味しかった?」
私は彼に問う。
「うん、美味しかったよ…」
反応は順調だと思う。
「でもね、お母さん…」
「ん?どうしたの?」
彼は逆手で持つフォークを私の左肩に突き下ろした。
「僕はこんな量じゃ足りないよ…」
激痛が走る。
「大嫌いなお母さんを食べたいんだ…」
これが彼女の恐れていた魔力暴走だろうか…。
刺さったフォークを引き抜くと、繰り返し何度も私に刺した。
「ごめんね、良太…無理をさせて本当にごめん…」
いくら謝っても、時を戻す事は叶わない。
長い間彼を一人にして寂しい思いをさせた上、口に合わない料理しか出せなかった私を嫌っていたのだろう。
【ボナペティート】の第一効果「嫌いなものが食べられる様になる」が過剰に発動してしまっているのだろう。
「分かってあげられなくてごめんね…ごめん…」
朦朧とする意識の中で私は涙を流しながら彼を強く抱きしめた。
しかし彼はお構いなしにフォークを胸に突き立て、ナイフで肉を切り裂くと、狂った様に噛みついてくる。
辛かったのは私だけじゃなかった筈だよね…ごめん…。
最初のコメントを投稿しよう!