9人が本棚に入れています
本棚に追加
エピローグ
世間から賞賛される凄腕の料理人だった彼女でも我々同様に悩みを持ち、それに苦しむ一人の人間だった。
魔術師であった私も又、心理カウンセラーではなく、領域を侵して他人の心に踏み込んでよい存在ではなかったのかもしれない。
「魔術」とは奇跡でなければ「万能」でもない。
本当の意味で履き違えていたのは私の方だったのだろう。
そんな事も知らずに魔術師を名乗っていた私の行動は嘆かわしい限りだ。
「ねぇ、魔術師なんでしょ?
お母さんを生き返らせてよ…お願いだから…」
彼を養子として育てる事にした。
「できれば私だってやっているよ…」
それが彼女に対する贖罪になるとは思っていないが、せめてそれくらいはさせて欲し…。
彼女を殺した私の罪はそんなに簡単に許されて良いものではない。
「ねぇ静香さん…僕、お母さんの不味い料理が食べたい…」
正気を取り戻した彼はずっと泣き続けた。
「不味いって言ってごめんなさい…」
母親の料理は美味しいか不味いかではなく、愛情や心がこもっていれば、それで良かったのではないだろうか…。
あぁ、彼女の料理が恋しい…。
最初のコメントを投稿しよう!