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しかし、もっと低コストで生産できる電化製品が登場し始めてから魔具は廃れ、ロストテクノロジーとさえ言われる様になった。
「ミルクと砂糖はどういたしましょう?」
彼女はテーブルに置かれたミルクを取る。
「両方いただきます」
続いてシュガーポットからスプーン三杯…。
かなりの甘党のようだ。
「お話を伺う前に言っておかなくてはならない事があるのですが、魔術は万能ではありませんのでそこは分かっていただかなくてはなりません…」
魔術が使える人間は減ってしまったので知識や認識も乏しくなり「奇跡」や「万能」などと勘違いしている輩もいるのが現状である。
「安心してください。
それは理解しているつもりです。
私にも多少魔術の心得がありますから…」
彼女は拳を握り、再び開くと手の平に火を灯してみせた。
これは厄介な客である。
魔術をある程度使える上でこの店にやってくる理由の多くは電化製品でも、自らの魔術でも解決できない悩みを抱えているからである。
要するに、高難易度の依頼なのだ。
そんな風に考えていた時、ふと彼女の事を思い出した。
「大変失礼なのですが、もしやあなたは渚さんでしょうか?」
彼女は不思議そうな顔で私の方を見た。
「ええ。
長谷川渚と申しますが、あなたは私をご存知なのですか?」
思い出してスッキリはしたが、彼女が私の店を訪れてくれる事など想像すらしていなかった為に認識できなかったのだ。
「ええ。
私はあなたのファンなのです。
瀬戸内レモンソースと讃岐サーモンのカルパッチョは本当に絶品でしたから…。
何度も通わせていただきました」
私が大好きで通っていたリベルタというイタリアンのオーナーシェフだ。
「あぁ、うちに食べに来てくださった事があったのですね…そう言ってもらえると嬉しいです」
「リベルタ」とはイタリア語で「自由」という意味で、言葉通り創作料理の店だが、予約もなかなか取れない人気店である。
そんな凄腕のシェフが私の魔具を買いに来てくれるとは、いったいどんな悩みを抱えているというのだろうか?
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