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好物がメニューにあると言うのに何故注文に迷ったのだろうと後になって疑問に思う。
まさに私の為に考案されたとしか思えない料理である。
実際そんな筈がないのだが、そう思わずにはいられない…。
「お飲み物は如何いたしましょう?
こんな素敵な料理ならワインがすすむだろう…。
「ではロゼを…」
人気店だからという理由で予約を取ったが、ナンバーワンの看板メニューが自分の好物だと知り、少しテンションが上がっている。
「かしこまりました」
少しして、料理が運ばれてくると一口。
最高に美味しいイメージをしていたが、そんな想像でさえ乏しかった事を知った。
これほどまでに料理に感動した事が、かつてあっただろうか?
グルメ雑誌に掲載されて皆が押し寄せる理由も、シェフ長谷川渚が天才と世間からもて囃される理由も納得できるというものだ。
美食家でもグルメでもなかった私は、こんなにも食に興味を持った事も料理に高揚した事も初めてだった。
あまりに気に入ってしまったこの店の事を、テーブルに置かれていたアンケート用紙が真っ黒になるまでびっしりと匿名で文字を書き込んだ。
それから何か良い事があった時や記念日等にはこの店に足を運ぶ様になり、すっかり常連客に…。
気付けば長谷川渚の虜になっていた。
彼女は私とは明らかに別の次元に住む天才なのだと思う。
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