第三話 料理人の苦悩

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 夫は外に女をつくり、家を出て行った。  離婚し、シングルマザーになった私は五歳になる息子に対し、何一つ母親らしい事をしてやる事ができていない。  ネグレクト同然のこの状況は「無能」だの「一族の面汚し」と罵っていた両親と何も変わらないではないか…そんな風に思うほかなかった。  私は孤独だったのかもしれない。  沈んだ気持ちで作る息子の食事は彼女の調理魔具を用いている以上、糞不味で食べられたものではなかった。  更に言えば、魔具に依存し過ぎた私は通常の調理器具で満足のいく味は出せない。  こんな人間が「カリスマオーナーシェフ」と呼ばれているとは片腹痛い。  店では客を想って美味しい料理を提供できたとしても、息子に「不味い」と言い続けられる精神的ダメージは大きい。  不味い…不味い…不味い…不味い…不味い…不味い…不味い…不味い…不味い…不味い…不味い…。  そう言い続けられるたびに精神が擦り減っていく気がした。  ストレスによるノイローゼの一歩手前だったのかもしれない。  そんな時、憧れであった大魔術師百合沢静香がこの街に魔具店を開いている事を知り、もう彼女に頼るしかないと思った。
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