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浅はかと言えばそこまでだが、魔術が衰退傾向にあるこの社会で少しは知っていると思ってもらえれば、お近付きになれるかも知れない。
そうすれば「リベルタ」にも来てくれるだろうか?
彼女の為に考案した料理を、本人に食べてもらえるかもしれないと考えるだけで興奮した。
「安心してください。
それは理解しているつもりです。
私にも多少魔術の心得がありますから…」
拳に火を灯してみせると、何だか変な空気になった。
ここは魔術など披露しない方が良かったのだろうか?
「大変失礼なのですが、もしやあなたは渚さんでしょうか?」
一瞬、何を問われているのか分からなかった。
何故名前を?
私はこの店に入ってから、身分を明かす様な発言をしただろうか?
彼女の事だ、魔術で私の素性を調べたのだろう…いや待て、こんな短時間でそんな事が可能なのか?
「ええ。
長谷川渚と申しますが、あなたは私をご存知なのですか?」
あれこれ考えたって答えが出ないのなら、本人に直接聞いてみれば良いではないか…。
「ええ。
私はあなたのファンなのです。
瀬戸内レモンソースと讃岐サーモンのカルパッチョは本当に絶品でしたから…。
何度も通わせていただきました」
え…?
えええええええええええええええええ…
「あぁ、うちに食べに来てくださった事があったのですね…そう言ってもらえると嬉しいです」
何度も通った?
嘘…いつだろう…全然顔を見た記憶はない。
グルメ雑誌で特集されてから、かなりのお客さんが来てくれる様になった。
全員の顔を覚えている訳ではないが、彼女が来てくれたのなら話は別だ。
いや、雑誌に掲載される程の有名店だからと気を使ってくれていると考えれば、納得はできる。
そんな事を考えていると彼女はクスッと笑う。
「その顔は信じていませんね?
ではこの顔ならどうですか?」
彼女は魔術で顔を変えてみせた。
「あ…」
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