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Zwei:Erinnerung
【全ての始まりの記憶】
今から12000年ほど前。黒い少女は、奴隷となるべくして生まれ、奴隷となるように教育され、そして育った。
彼女の仕事は、富豪の男のもとで、ありとあらゆる奉仕をすることだった。とはいえ、基本的には雑用くらいのものであり、奴隷でない人物と会うことも、外に出て働くときくらいだった。
「なんかさ、奴隷ってもっとボロボロの服とか着てるもんだとばっかり思ってたよ。けっこうちゃんとした見た目してるじゃん」
アイリアは彼女の様子を見て、そう呟いた。呟いた声は、周りの人には聞こえない。見えているものは過去の記憶であり、したがって変化しない、干渉できない。その声を聞いたのは、ルーシィだけだ。
「彼女の主人は、そういう点では恵んでくれる人だったんだ。その人の顔は、この頃はまだ見たことが無かったようだけど」
大量の荷物を持って少女は、大きな屋敷の中に入っていく。そしてなんの迷いもなく、地下の広い空間に入っていった。巨大な物置き。何しろ物がたくさんあるので、毎日毎日運搬や整理の仕事が奴隷達に与えられる。ここの奴隷の仕事の大半はこれだ。
少女は持ち場につくなり、同じ立場の男に声をかけられた。筋肉質だが、不健康そうな見た目の中年の奴隷。男と少女は、それなりに仲が良く、労働の日々の中で労り合っていた。
「おう、買い出し終わったかい」
「全く大変だった。世の男というのはどうしてこうも節操がないんだ。本当に嫌になる」
雑談をしながらも、手は止めない。軽い調子で話してくる男に対し、少女は重く、男勝りな話し方で対応する。
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