4人が本棚に入れています
本棚に追加
「本当なら、体の一つや二つ、増やしてほしいものなのだけれど?」
手厳しいことを言いながら近寄ってきたのは、周囲の者とは明らかに雰囲気の違う女。言うなれば、現場監督といったところ。その言い方は若干不正確かもしれないが、ほぼ同じようなものだ。
奴隷とは異なり、正規に雇われた市民権を有する使用人、という立場らしい。
「また厳しいことを言いますな。こんなにも我々は尽くしていますのに」
男は自分自身のその言葉に従うかのように、手を止めることなく笑ってみせる。それにしてもこの男はやたらと女に好かれたらしい。そのことに関して本人は何も思っていなさそうである。そこがむしろいいのだろう。
一方で少女はといえば、嫌味とも冗談とも言えるような言葉には一切耳を傾けず、黙々と作業を続けていた。
「そこのアナタ、なんだけどね……なんとか、ならない?」
「なるわけないでしょう。何の空想の世界に生きているのですか。確かに、なんとかなったらいいだろうと思ってはいますが……でも、現状の私も、なんとかなっていますよ」
「まあ、確かに。いくら人が増えようとたりる事は決してない、ってくらいで、基本的にはだいぶ使える子だものね、アナタ……」
その後も仕事をしながらの監督の女との雑談は続いたが、その内容は至って平和そのものだった。「奴隷」という言葉のイメージとは大きくかけ離れていると言ってもいい。
「なんか、あたしてっきり、自分の立場に不満があって、それで心が歪んでいったのかと思ってたけど……」
「それはまた短絡的だね。言葉のイメージが先行しちゃったってやつかい?」
最初のコメントを投稿しよう!