Zwei:Erinnerung

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「……ご主人は」  年老いてもなお、変わらずに通る声で、使用人の女は告げる。全ては予定調和とばかりに。  そして、それは少女にとっても同じ。 「ご主人は、これを拒む場合のアナタの思考を読み切っていた。その通りの思考をアナタはした。ならば、我々のすることは一つ。力を断つため、アナタを殺すこと」  この時、少女の中で何かが切れた。どうせ殺せないのは分かっている。自分が20年経っても少女のままで、何一つ傷を受けたことがないので、不老不死の存在なのだと理解している。だが、この際自分の生き死になど、どうでもよかった。  ああ、もう戻れないんだ。人に尽くすことで、幸せになれる日々は。どんな思いを見せても、きっとこの人達は殺そうとする。  少女は目の前の女を殴った。一発でまともに体を動かせないくらいに壊しながらも、殺しはしなかった。自分の言葉を、聞いてほしかったから。 「分かっているんだ、私がおかしいことくらい! まともな存在なわけがない……だが! それでも生き方が与えられているって信じたかった……! 本当に甘かった……!」 「うぶっ」  もう一発。即死はしないが致命傷までは追い込んだ。急激に全身に外傷が加わったからか、変な呻き声しか出せなくなっているが、それでも何かを主張しようとしているのは分かった。 「お前がやったことだろう、とでも言いたいか!? そうかもしれない。だが、人間というのが汚い生き物ではなかったら……私は何も恐れる必要はなかったんだ」  言い終わる頃には、目の前には三枚おろしの肉が落ちていた。誰かの死体なわけがない。所詮は、猿の三枚おろし。  少女は窓の外を眺めて、一言呟いた。 「ここにいる全員で、足りるだろうか……」
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