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【森の中の物語】
「何も、ここまで……ここまでしなくたって……」
アイリアはその惨状を目の当たりにして、口を押さえながらうずくまる。自分は今、物質ではない、記憶領域上の形而上存在のはずなのに、確かに胃の痛みを感じる。吐きそうだ。
「人類全体の次に大きい人のくくりというのは、国もしくは民族だ。そのレベルなら、本当に情報はすぐに行き渡る」
「そういうのじゃないよ……皆と、もっと歩み寄るとか、できなかったわけ!?」
できなかった。できるわけがなかった。歩み寄るには、どちらかが逃げる形になってはいけないからだ。そして逃げながら、踏み潰そうとしていた。
だから抗った。だが、抗いすぎた。強すぎた。引き返せないほど。
「人は弱い。今もそうだけど、この頃は、もっと。魔法でどれだけ人は強くなっただろうね。力に慣れて、振るうことに慣れて……」
ルーシィの時代には、当然ながら誰もが魔法の恩恵を受けていた。テレゴネイアの時代も、アイティオピスの時代も……世界が、社会が受け入れたのは、その力に慣れていたからだ。
恐怖しなくてもよかったからだ。
少女キュプリアは、何も無くなった土地を独り歩いていた。これから何をしようか。生きて何をするべきか。何もない。尽くしたかった人々は、尽くせるかもしれなかった人々は、絶滅した。そして、それしか生き方を知らない少女は、生きる理由を失った。
キュプリアの選んだ行動は、かつて自分の寝床があった場所──幽閉される前に寝泊まりしていた部屋──へ向かった。部屋は無くなっていたし、そもそもプライベートルームでもなかったので強い思い入れは無かったが、やはりここが一番安眠できる。
そうだ、ここでずっと眠っていよう。何も感じず、何も考えず、いつか石と同化するとしても。きっと、何百年くらいか寝れば、私だって死ぬんだから。
そう考えながら、眠った。
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