Eins:Kampf

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「痛い……物凄く痛い……けど。致命の一撃にもならないようなところを殴ったとしても、何も効きはしない。忘れた?」  もちろん、アイリアは忘れてはいない。それどころか、腹部を両断する勢いで──おそらくはそれでも、動脈にすら届かなかっただろうが──振っていた。 「向きを間違えた……何の?」  武器の向きか、手首の向きか。思わず心の声が外に漏れ出すほどに動揺している。自分の動きの原因が分からないことだけではない。  精度に絶対の自信があっただけに、それを自ら破綻させたことで、軽いパニックとなっていた。そのせいで、周りに配置されたビットに気付くのに遅れた。 「刺せ、紅玉の楔(テルムルビィ)!」  アイリアが気付いたのは、ルーシィが詠唱を行ったその瞬間だった。そしてその後の一瞬には既に楔形の弾丸が取り囲むように配置されたビットから射出され、ほぼ避けるのが不可能となっていた。  条件反射的に、緊急防御を使って弾く。斥力によってビットも何個か破壊できた。残ったものも、武器を振るって破壊する。 「よし、鬱陶しそうなものはなんとか……」 「どこを見てる!」  声が聞こえたのは真上から。前転しながらルーシィが落下してきた。これまた避けられそうにないので武器で受ける。しかし、今までの斬撃と比べても驚くほど重く、逆に弾き飛ばされる。  この時、木にぶつかったアイリアは体を反らせながら冷や汗をかいていた。反らなければ、思いっきり肺が太い枝に貫かれていたところだった。  魔女に吹き飛ばされた先で何かが刺さっても、再生が遅くなるかは分かっていなかったが、もしもというのを考えると恐ろしい。
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