M男くんとM子さん

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 M男君はいわゆるエゴマゾだ。  今年2回目の検査入院をしている60前半のM男君は、せっかくお見舞いに来てくれたパートナーのM子さんが持ってきたイワシの甘露煮を「メロンじゃない」と言って食べないばかりか、白髪頭にシーツを被って、さっきからベッドの中に隠れている。 「お魚は身体にいいですよ〜」  孫くらい若いM子さんはそう言ってタッパーのフタを開ける。甘露煮の甘辛い臭いが病院の個室に広がる。  M男君の肩がぴくんと揺れる。嫌いではない。長年付き添ったパートナーのM子さんが持って来たんだから、好物なのである。 「メロンが良かったんだもん」  少し弱い声をモゴモゴと、布団の中で呟く。M子さんが余裕の笑顔で答える。 「あんまりワガママ言うと、うんこ食べさせますよ、ご主人様」
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