レンタル美少女探偵アンジェリーナ

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レンタル美少女探偵アンジェリーナ

 ボクの知っている美少女は()れなくワガママだ。その最たる者が彼女だろう。  幼馴染みで、名前は安仁(あんじん)リナと言う美少女だ。最近、彼女は自分の名前をアンジェリーナと呼ばせたがっている。  もちろんボクも彼女の名前を呼ぶ際は、アンジェリーナと呼ぶ。  つい先日までは彼女の夢は美少女アイドルになることだった。その数週間前まではCAだ。  確か、その前は美少女弁護士で、その前は美少女ドクターレディーだった。  その都度、幼馴染みのボクは彼女ののように付き合わされる。  たとえば、彼女が美少女ドクターレディーならボクの役回りは患者の役だ。  美少女ドクターレディーは心臓移植と言う高度な技術を必要とするオペのスペシャリストだ。  下手をすると本当にオペの実験台にされかねない。  危うくまな板の鯉みたいに三枚おろしにされる所だった。  そして、つい最近リナのマイブームは美少女探偵だ。  自らを美少女探偵アンジェリーナと名乗った。  今、ちまたで流行(バズ)っているアニメ『秘密探偵アンジェリカ』を意識したネーミングだろう。  取り敢えず彼女は恰好から入いるタイプだ。特注のコスプレをして美少女探偵アンジェリーナを演じていた。  もちろんボクも付き合う羽目になるようだ。それも(いた)(かた)ない。ボクは彼女に首ったけだからね。  今日もまたリナのワガママからボクの一日は始まった。  ♢♢♢♢♢  抜けるような青空が広がっている。昨夜まで降っていた雨も上がり、のどかな晴天だ。  今日は日曜日なのでリナから近くの公園へ来るよう呼び出された。  すぐ来いと言われたが、こっちだって用意がある。  5分ほどして公園へ着いたが、彼女の姿はない。しょうがなく自販機で買った缶コーヒーを飲みながら待っていると、いきなり背後から声を掛けられた。 「ジャスティン!」 「ええェ……?」ボクは驚いて飲んでいた缶コーヒーを吹き出しそうになった。 「遅くてよ。あまりにも遅いからシャワーを浴びて来たわ。私が呼んだら3秒以内に来なさい。わかったわね。ジャスティン」  リナはボクの前に現れると矢継ぎ早に無理難題を命じてきた。 「いや、でも……、いくらなんでも3秒以内なんて無茶だよ」 「口答えは許さなくてよ。『ハイ』以外の選択肢はないのよ。ジャスティン」  幼馴染みのリナは、まるでアニメからそのまま飛び出して来たようなコスプレをしてボクに命じた。 「ええェ……、あのボクはジャスティンじゃありませんよ。リナちゃん」  ボクの名前は只野正義(ただのセイギ)だ。ジャスティンみたいなキラキラネームではない。  それにしても、よくこんな派手なコスプレが出来るモノだ。似合ってはいるものの周りの一般人たちからは完全に浮いている。 「何よ。このレンタル探偵アンジェリーナに口答えする気なの? 許さなくてよ。  いいえ、たとえ神が許そうともこのアンジェリーナが許さなくてよ!  それから何度も言ったはず。アンジェリーナと呼びなさいと。おわかりジャスティン」  お姫様のように上から目線で命じた。   「えェ……、わかったよ。今日からジャスティンにします。アンジェリーナ」  これ以上、無駄に言い争ってもどうせボクは彼女に叶いはしない。 「ねえェ……、ジャスティン!  何か、胸が踊るような素敵でッてないの?」  いきなりボクのすぐ横に座り訊いてきた。  ボクの二の腕に彼女の柔らかな胸の膨らみが触れてくる。 「いやいや、ないですよ。そんな素敵でハッピーな連続殺人事件なんて……。どんな殺人事件ですかァ?」  ボクはドキドキして応えた。 「詰まらないわ。絶望的に詰まらなくてよ。なにをしているのよ。ジャスティン」 「いやいや、じゃありませんよ」 「もう我慢できないわ。レンタル探偵アンジェリーナは、一日ひとつは素敵でハッピーな謎を解かないと禁断症状を起こすタイプの美少女なのよ」  シリアスな顔でクレームをつけた。 「どんなタイプですか……」  完全にモンスタークレーマー的な言いがかりだ。 「わかったわ。じゃァ、10秒だけ待って上げてよ。今すぐワクワクするようなミステリーを探してらっしゃい」 「いやいや、無茶言わないで下さいよ。そこらに転がっているワケないでしょう。そんなワクワクするような殺人事件なんて」 「バカなの。ジャスティン!」 「ええェ……、いや別にバカではないですよ。ジャスティンでもないし」  断っておくがボクは正義(セイギ)と言う名前だ。 「良いこと。身近にミステリーがなければ積極的に殺人事件を作っていくのよ。それが美少女探偵アンジェリーナの捜査方針なの」 「どこの殺し屋ですか……」 「構わないわ。何人か、適当に見繕って片づけていらっしゃい。この(アンジェリーナ)が真犯人に仕立て上げるわ」 「そんなァ、ボクを犯人に仕立て上げないでくださいよ。それに適当に片づけろって。スパイファ○リーじゃないんですから。  そんなの探偵の仕事じゃないでしょ。どっちかッていうとテロリストじゃないですか」 「口答えは許さなくてよ。ジャスティン。今すぐワクワクするようなミステリーを(ふた)つ三つ、見繕(みつくろ)っていらっしゃい」 「うッううゥ……、わかったよ」  まったくどれだけワガママなんだろう。  急遽、ボクがネットで見つけてきた殺人事件が今回の『ダイイングメッセージ』は『へ』と言う事件だった。
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