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1 生徒会長、就任
「それでは、新しい生徒会長は、神代さんで決定!」
わーっ、パチパチ、と生徒会室の中で拍手が巻き起こった。
わたし……神代朱音は、いったいなにが起こったのかと、ただ目をまたたかせることしかできなかった。
生徒会室の教卓の前。会議の形にととのえられた席の、議長席。
そこに座っている生徒会長の目が、まっすぐにわたしを捉えている。
「それじゃあ、神代さん! わたしの後継ぎとして、この夫畑中学校をよろしく!」
「えっ、愛先輩、ちょっと待ってくださ……、」
自分の座っている書記席から立ち上がって異議を唱えようとするも、時すでに遅し。
この会議で議長を務めることが、最後の会長としての仕事だ。
そう張り切っているらしい緒塚愛先輩は、わたしの発言を気に留めることなく……さっさと次の議題へと移ってしまっていった。
*
「ウソでしょ……。」
呆然としながら、わたしは帰り道をとぼとぼと歩いていた。いつもより、背負っているリュックが五割増し重く感じられる。
となりを歩いているのは、幼なじみの芦戸康介だ。今年度の生徒会副会長となった、頭も運動神経もいい、クラスの中心的存在。
彼は、さっきからずっと心ここにあらずの状態を続けているわたしに呆れているのか、ため息をつきながら「バッカだなぁ。」と言う。
「そんなに生徒会長嫌なら、最初から嫌だって言っとけばよかったんだよ。」
「だって、まさか、本当に選ばれるなんて思いもしなくて……!」
言い訳してから、肩を落とす。
でも、康介の言う通り、本当に先に言っておけばよかったなあ。
……ゆうに百年以上の歴史を持つ、A市立夫畑中学校。
その生徒会選挙というのは、毎年秋に行われる。
生徒会に所属する三年生の推薦により候補者を立てて、演説ののちに全校生徒で選挙をする。そこで生徒会長と副会長が決定されるのだ。
それで、今年の会長候補者は、書記のわたし、庶務の康介、会計の鈴木翔くん、二年副会長の白石心愛ちゃん、ということになったわけなんだけど……。
「てっきり、わたし、心愛ちゃんが会長で、康介が副会長になるんだと思ってて……。」
わたしのことを推薦してくれたのは前会長の愛先輩だったのだが、正直選挙でわたしが選ばれる可能性はゼロに等しいと思っていた。……わたしが選挙を辞退しなかったのは、せっかくアコガレの愛先輩が推薦してくれたから、っていうだけの理由だったし。
康介が副会長なのは予想通りだったけど、かわいくて求心力のある心愛ちゃんが選ばれないなんて、完全に想定外。
心愛ちゃんは、優しくてかわいい、まさに天使のような女の子だ。しかも彼女のお父さんは服飾会社の社長さんで、お家もたしか相当なお金持ちだったはず。
それなのに、どうして平凡すぎるわたしなんかが……。
「嫌ってわけじゃないんだけど、自信ないよ……。」
「いいじゃん、別に。やれるだけやってみれば。」
康介はにっ、と笑って軽く言う。
「まあ、朱音は頼まれると断れない底抜けのお人好しだし、緒塚先輩みたいな生徒会長っぽいカリスマ性とかはないけど。」
ひどい、とわたしは頬をふくらませる。
全部事実だけど、そこまではっきり言わなくてもいいじゃないか。
すねるわたしを見て康介はおかしそうに笑うと、肩をばしっと叩いてきた。
「でもまあ、大丈夫だよ。オレもちゃんと助けるし。」
「うん……。」
わたしは叩かれた肩をさすりながら、うなずく。
……でも、康介がいたとしても、不安なのには変わりない。
自分の優柔不断さが招いたことだとはわかってはいるけど、本当にこんな感じで大丈夫かな。前生徒会長の愛先輩は、もっと堂々としていたのに。
自分で言うのもなんだけど、先行きが不安すぎる。
わたしはうつむくと、ため息をついた。
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