犬飼夏月

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「マナトくんは……沙羅がそういうことをしてお金を稼いでいるのは知っているの? 」 「……知らないと思う……でも、友達はマナトと同じ店の人からの紹介でこの仕事教えてもらったって……言ってた」 マグカップに視線を落としたままの沙羅は、溜息をつくようにホットミルクに息を吹きかける。 「……例え知らなくても、お金を払って……会いに行く関係なんて賛成できないわ。沙羅はマナトくんに恋してるかも知れないけど、彼はどう考えたって仕事よ? 高校生の沙羅がどうやって大金を稼ぐかなんて、考えればすぐ分かること。利用されているだけ。マナトくんが沙羅に何て言っているかは分からないけど、大切だと思う人にお金を貢がせるなんてしない。沙羅は騙されているの。沙羅は……」 「うるさい! うるさい! うるさい! うるさい! なっちゃんに何が分かるの? マナトの何が分かるの? あたしはずっと寂しかったの。小さい時から施設に入れられて、ママもパパも居なくて、誰からも必要とされていないんだって思ってきたの。だけどマナトは優しくしてくれた。あたしの寂しい気持ちを分かってくれた。同情なんかじゃない。本当にあたしの心を理解してくれたの! 何も知らないのにマナトの事を悪く言わないで! 」 テーブルに叩きつけられたマグカップは底が欠け、こぼれたホットミルクはシミのように広がっていった。 「沙羅っ。ちょっと待って。違う! 本当に沙羅の事を思っている人は、沙羅が辛くなるような事なんてさせない。沙羅が大切なら……」 「大切なら? そんな言葉よく言えるよね。結局なっちゃんも他の大人と変わらないんだね。大切ならパパもママもあたしを捨てなかった。一緒に居てくれた。本当にあたしのことを思ってくれる人なら、あたしが辛くなる様な事なんてしないんでしょ? あたしはパパにもママにも大切になんて思ってもらえなかったの。だからここにいるの! こんな場所に居るの! だからあたしは1人なの! だからあたしは寂しいの! 」 小さく丸まっていた沙羅の体は空気を切るように いきり立ち、幼い頃から溜め込んでいた怒りや悲しみが押し寄せていた。分かる。分かるの。だけど彼の優しさは愛じゃない。 「沙羅っ。沙羅っ待ってよ」 「もう放っておいて! 1人になりたいの。なっちゃんの上辺だけの言葉なんて聞きたくない! 」 寂しいなんて、いくら思っても埋まらないことを私たちは良く知っている。寂しいなんて思いは弱みにしかならない。体の関係を持つことで埋まる寂しさは氷のようにすぐ溶けてなくなる。 夢も嫌い。愛も嫌い。でも孤独はもっと嫌い。だからみんな道を間違える。 どこまで戻れば正しい道に行けるのか……私はまだ答えを知らない。
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