九条蓮

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「今度はどこのやつらだよ? たくっ。無理やりヤッて何が良いんだか。三木島んとこは、さすがにうちのシマ荒らす様なこともしねえだろうし、半グレか外国人の奴らか? 」 「そうかも知れないっす。ウチの存在を知ってて手を出すなんて、そうに決まってますよ」 「チッ。どっちにしろ面倒くせぇな。半グレっつったって、久保んとこがケツ持ってんだろ? ちっと久保にちゃんとガキの躾しておけって言っておけよ」 「分かったっす。でもその半グレの紅蓮隊とかって奴らは薬物系はやらないらしいっすよ。何でも紅蓮隊のリーダーが会社を興して、結構うまくいってるらしいんでサツに目ぇ付けられねぇ様に薬物に手を出すなってなってるらしいっす」 「馬鹿じゃねえの恭介。そんなんは表向きだけなんだよ。大体、そいつらがやってなくたって半グレなんてウジムシの様に湧いて出てくんだし、薬物捌いてりゃ金になんだから、半グレか外国人で決まりなんだよ」 征也が恭介の頭を叩く。少しだけ女達がクスクスと笑い、くぐもった様な話は一瞬で消える。本気で秘密の話をしたいのならば、こんなとこでは話さない。噂好きの女達に餌を撒いて、あとは女が情報を持ってくることを期待する。 「まぁ半グレだろうが、ハイグレだろうが、ウチのシマで好き勝手やられちゃ目障りだからよ。お前ら調べろよ」 「アニキっ。ハイグレとか少しジジくさいっすよっ」 一気に酒を飲み干して、カーンとグラスを置きながら征也が声を張り上げる。堅苦しいことを言いながらも征也は酒に飲まれやすい。 「あー? てめぇだってもう30過ぎだろ? 十分ジジイなんだよ! ねぇエルメスちゃん? 」 「その子はエリちゃんです! 俺っ。まだジジイには早くねぇっすか? 結構、若々しいって言われるんすよ? 」 「出会った頃は下の毛も生えてねぇ様なガキだったんだ。もう十分オッサンだろ? 」 「いやいや! あん時だって毛は生えてましたよ! 15っすよ? 」 征也は唸るように身を乗り出して、自分の股間に手を当てる。女達はキャアキャア言いながらも、しっかりと征也の股間に視線が集まる。 「あー? そうかチェリー君だったか」 「えっ? いやいやっ。ア、アニキ。やめて下さいよっ」 「えっ? えっ! マジっすか? 征也さん15で童貞だったんすか? やばくないっすか? 」 笑い転げていた恭介が、空気を断ち切るように急に真顔になる。15で童貞なんて、ありふれたフレーズなのに、恭介の人生にはどうも見当たらないらしい。 「あー? 何だテメー。あ? ん? じゃあ恭介お前はいくつで卒業したんだよ? 」 「俺は11っす。年上の女と」 「11ぃ? お前それはやべえだろ? 小学生じゃねぇかよ。犯罪だよ犯罪! 」 「いやいや。みんな中学上がる頃には童貞捨てますよね? 俺らの地元に、チェリー姉さんってのがいて、そのチェリー姉さんが俺らの童貞を貰ってくれるんすよ。だから俺らみんなチェリー兄弟? みたいになってて。征也さんはどんな女だったんすか? 」 「あ? ん? どんな……」 「恭介……俺は征也と出会った時は童貞だったっつっただけで、15で卒業したとは言ってねえよ」 「えっ? え、え、まさか征也さんっ。まさか……そんな……」 「ちょっ! ちょっとアニキ! やめて下さいよ。俺の兄貴分としての威厳が無くなっちまいます」 この世界にいるやつは、一つや二つ人が引くような出来事や常識はずれのエピソードを持っている。親の虐待、自殺、夜逃げ、犯罪、少年院。真っ当な親の元に生まれて来れなかったガキが、揉まれ流れて、行き着いた先はヤクザの道。 笑える話なら酒のツマミにでもなるけど、だいたいは一度聞いただけで腹がいっぱいだ。
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