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ならばスーツケースを見て「一番目を引くもの」は、橋本が最も売りたいと考えているものであり、すなわち「仕入れ価格より販売価格を高めに設定した、利潤を得やすいもの」ということになる。イコール、そのブツは決して「高品質ではない」ということだ。
開けられたスーツケーツを見てまず目を引いたのが、真ん中あたりにズラリと並べられた、赤や黄色などの原色を用いた錠剤類だった。いかにも「これが売れ線ですよ」とばかりに並べられたそれらの錠剤が、橋本が「一番売りたいもの」であろうことは、すぐに察しがついた。ゆえに、高品質のブツを選択するのであれば、これらは真っ先に「選択肢から外すべきもの」だった。
そして、真ん中あたりに並べられたものとは対照的に、四角いケースの四隅に置かれた錠剤類。これはその色も真ん中のものとは対照的に、昔ながらの「薬品」のような灰色や白に近い色合いをしていた。オセロで四隅を取ったかのように置かれたそれらの錠剤が、一般的には真ん中の原色類に次いで「目を引くもの」だと思われた。
しかしこれらは、「それなりに品質の高いもの」であろうと俺は考えた。ベテランの客なら、こういった「薬品っぽいもの」により興味を引かれるだろうことを意識した配置なのだ。原色で色合いの目立つ錠剤は、それゆえに若者や女性に人気があるが、その分「安かろう、そして質も悪かろう」という確率が高い。「昔ながらの地味な色合い」の方が、年配者は品質面で安心出来るのだ。
だからこの四隅の錠剤は、それなりに高品質ではあるだろうが、ケースの中で「最上級」ではないと思えた。最上級なら、「四隅」などに置かず、ひとつのところに「そっと置いておく」はずだ。それを「見つけてくれる者」を、その場所でじっと待ち受けているかのように。そして俺は、「それ」を見つけ出した。最も目立つ原色の錠剤の下に、さりげなく置かれた「薄いピンク色」のブツを。
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