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「これは昔、『アダム』と呼ばれていたMDMAを改良したもので、アダムは最も有名なエクスタシーに次ぐ人気があったと言われています。エクスタシーがMDMAの代表格として知られて行く中で、アダムはより『通な人々』に愛用されていたと言えるでしょう。  こういった錠剤は合法化により、MDMAにお決まりの『不純物』などは一切含まず、服用することによる危険性も極めて薄くなっています。しかし、それでは『物足りない』のが、合法化以前から薬物を使用していた方々の悩みでした。山下さんには、私共の『懐古セット』を愛用して頂いてますが、そういった懐古主義に頼ることなく、現代に於ける『確かな薬物』として、これは開発されました。アダムの『直系の子孫』ということを踏まえ、この錠剤はアダムの息子、『カイン』と名付けられています」  橋本はさも自慢げに、俺が取り上げた薄ピンク色の錠剤、通称「カイン」の説明を語った。これが、カインか……。俺もその名前を聞いたことはあったが、実際にこうして目にするのは初めてだった。アダムの「後継種」としては、「エヴァ」と呼ばれるものが現在最も出回っているブツだったが、それは橋本が言ったような、アダムの効能を「薄めたもの」で、アダムを服用したのと「似た気分」が味わえる、といった案配のものだった。    カルピスを何倍にも薄めたような味わいしかないエヴァに比べ、一年ほど前からそのウワサを聞くようになったカインは、ほぼ「原液」を味わうようなインパクトがあるという、もっぱらの評判だった。そうそう、老舗のカルピスは21世紀後半の現在もまだ、家族に愛される飲料製品として、「お茶の間」に君臨している。やはり長年愛されてきたものは、それだけ確かで、安心感に満ちたものだということなのだろう。
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