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 その「ウワサのカイン」をこうして持っているということは、更にウワサの域を出ない「伝説のブツ」、SEXtasyも。こいつは手に入れることが出来るということなのか……? 俺は橋本が「やり手で実績のある営業マン」であることは認識したが、果たして「そこまでの男」なのかどうかは、正直読み切れなかった。 「ね、橋本さん凄いでしょ? それであたし、史郎のこと橋本さんに話したの。そしたら橋本さんも、その気になってくれて……」  カオリは、カインの錠剤にじっと見入っている俺を見ながら、嬉しそうにそう言った。カオリの言葉を受けて、橋本がその後を自分の言葉で引き継いだ。 「……はい。片山さんが、非常に腕のいい”ハンター”だとお聞きしまして。しかも、薬物合法化直前から施行に至るまでの、最も混沌とした時代に。【ストライダー】と呼ばれその名を馳せていた、伝説のお方だと……」  ……伝説ってのは大袈裟過ぎるが、まあ俺がそんな時代に、色んなことをやってたのは間違いない。薬物合法化法案が施行される直前、それまで出回っていた「ヤバいブツ」をどう処理するのかが、法を施行する側もクスリにハマっていた奴らにとっても、重要な課題になっていた。  明らかに「違法な手続き」を経て出回ったブツを、法案施行後も引き続き「違法」とするのか。薬物を合法化するのだから、そういったブツも「合法」だと規定するのか? その「線引き」はどこに設定する? ……法案自体が無理難題だったがゆえに、「違法だったブツ」の取り扱いもまた、無理やりと言える落としどころを見つけるしかなかった。  苦肉の策として発表されたのは、法案の施行が決まった期日を「セーフティライン」とすることだった。それ以前に作られたものは「違法」、それ以降ならば「合法」という、強引極まりない線引きが設けられたのだ。
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