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 そして予想通り、この「セーフティライン」を巡って、そこら中で虚々実々の駆け引きが行われるようになった。このブツはセーフなのか、アウトなのか。アウトならば、どうすれば「セーフに出来る」のか……? 誰もが自分に都合のいい結論を求める状況の中、それをある程度信頼度の基準をクリアした上で、客観的に判断出来る奴が必要だった。俺がやっていたのは、そういう仕事だった。  それは恐らく、俺が「持って生まれたもの」だったと思う。「鼻が利く」なんて言い方をよくされるが、俺はまさに自分の「嗅覚」によって、ブツの「目利き」が出来たのだ。嗅覚だけでなく、味覚や視覚、触覚も人より優れていたようで、ぱっと見て「こりゃダメだ」と判断出来たり、見た目でわからなくとも臭いを嗅いだり指で触れたり、少し舌に乗せたりするだけで、そのブツの優劣を「嗅ぎ分ける」ことが出来た俺は、法案施行前の混乱状況の中で、引く手あまたの状態だった。  更に俺の「嗅覚」はなぜか、身に迫った危険を敏感に感じ取ることも可能だった。お上の手入れが入りそうな、そんな「ヤバイ雰囲気」をいち早く察知し、「今日はやめにしよう。しばらく連絡も取るな」と皆に言い渡し、何度も危機を回避してきた。そんな理由もあって、「ブツの鑑定を頼むなら、片山に」という情報が裏社会で広まっていたのである。  そしてブツの鑑定と共に俺が得意としていたのが、クライアントが欲しているブツを「見つけ出すこと」だった。これもやはり、俺に備わった独特の嗅覚が役立っていたと言えるだろう。混乱状況の中、高価なクスリがその価値基準を判断出来ない奴の手に渡っていたりすることもあり、そんな希少品を探し当てる仕事を請け負う俺のような輩が、通称”ハンター”と呼ばれていた。  その中でも俺は、組織などの壁を超えた色んな「現場」を渡り歩き、同時に結果を出すまでの手腕も素早かったことから、大股で、そして速足で歩く者=【ストライダー】という呼び名を授かることになった。
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