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「お褒め頂き、ありがとうございます」
橋本は満足そうに微笑み、この工場跡を見つけ出すに至った経緯を語り出した。
「カインが作られたのが、日野さんのいた研究所だったことまでは突き止められたんですけどね。肝心の日野さんの消息が、そこからパッタリと途絶えてしまっていた。そこで私は、消えた人間を追いかけるのではなく。自分が日野さんだったらどうするか、どこへ行こうとするのか……? と想像してみました。いわば、プロファイリングとも言えるやり方で、この場所を探し当てたのです。
それは多分に、幸運にも恵まれたおかげだと思いますが、わたしはその考えに基き、何か所かの候補地を絞り込み。薬物を精製するのに”最も適さない場所”として、ここにたどり着きました。よく『木を隠すなら森の中、人を隠すなら人混みに』などと言いますが、日野さんほどの人であれば、その『逆』を突いて来るのではないかと。私は、全くその気配がしない場所にこそ日野さんはいるはずだと考え、そしてそれが正解だったことが裏付けられたわけです」
やや自慢げにも聞こえる橋本の解説は、恐らく「これからのこと」を見越しての言葉だろうと思われた。なぜなら、俺と日野はむかし実際に「ブツのやり取り」で関わり合ったことがあり、この場に於いては橋本の方が「新参者」という立場になるからだ。そこで「自分の優秀さ」をアピールしておくのは、当然のことだと言えるだろう。
「まあ、わしも橋本君も、そして久々復帰のストライダーも。それぞれがそれぞれに、卓越した『その道のプロ』ということだな。その3人が顔を合わせる機会を、わざわざ設けたというのは。それに相応しい『大仕事』を始めようってことだな。そうだろう、橋本君……?」
橋本は、日野のその言葉を待っていたかのように、「はい、もちろん」と、やや大げさに頷いた。こうして俺たちは、まだ見ぬSEXtasyの底れぬ泥沼に、ズブズブとハマりこんでいくことになったのだった。
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