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「ここに至って私は、SEXtasyのウワサの信ぴょう性を疑うようになりました。どんな薬物でも、必ずそれが精製され製造された過程が存在する。その過程がバッサリと抜け落ちたまま、夢のような効果だけがウワサとして広まっているSEXtasyとは、本当に『実在』するのか? と……」  ここで、それまで「聞き役」だったカオリが「はい、はーい」と手を挙げた。 「それ、あたし聞いたことがあるよ? SEXtasyが、どうやって作られたのかってやつ。それもやっぱり、ウワサのひとつなんだけどさ。  なんかね、日野さんみたいな専門家じゃなくて、自分でクスリを調合するのが趣味ってだけの、素人の人が偶然作っちゃったんだって。でも素人だから、専門家みたいな『加減』をすることが出来なくて。一度ハマったら抜け出せない、使用した人の身を滅ぼすような、とんでもないクスリを造り上げちゃったんだとか……」  そのウワサは、俺も聞いたことがあった。夢のようなブツに対しての、「いかにも」な理由付けだなと思ったのだが。橋本はニコリと微笑み、「貴重なご意見、ありがとうございます」とカオリに礼を言うと。カオリのその言葉を前提にした上で、話を続けた。 「いま山下さんが言われたような、そんなウワサが広まるくらい、SEXtasyに関してはその開発過程が、一切知られていないんです。いつ誰が、どこで作り、どういった経路で広まっていったのか。SEXtasyが実在するものであるならば、どれだけ隠そうとしても、どこかにその痕跡が残っているはずなんですが。日野さんが作り上げたカインが、知り合いのバイヤーを通じて限定的に販売する予定だったのに、その情報が爆発的に広がっていったように。人間の、欲望を満たそうとする欲求は、それだけ強いものなんです。  そんなウワサを聞いていると、すでに薬物にハマってしまっている輩はまだしも。私や日野さん、片山さんのように、ある程度薬物を『客観的に』見れる者には。SEXtasyの存在に対する信頼性が、極めて薄くなっていくのが自然です。誰かが言いだした作り話に、勝手に尾ひれがついて広まっただけではないか、と……。しかし私はここで、『逆の可能性』を見出しました」
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