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「私は逆の発想として、SEXtasyのウワサは、自然に広まったのではなく。もし誰かが、意図的に広めたものだとしたら? と仮定してみました。そして、意図的にウワサを広めたのだとしたら。その意図とは、一体何なのか……? と。
考えた末に、私はひとつの結論に達しました。ウワサの内容をより刺激的、煽情的なものにすることで、ウワサが広く素早く、拡散していく効果を狙い。かつまた、そのウワサを聞いた『専門家』にとっては、実在するのか怪しいものだと認識するような。そんな、『もうひとつの狙い』があったのではないかと。
つまり、SEXtasyが実在するものであるという、前提に於いて。作り上げた製作者とその関係者は、あまりに危険な薬物だったため、その公表を避け、隠ぺいを試みた。しかしあまりに危険なゆえに、完全に隠蔽することは不可能であるとも気付いた。これだけの突出した効果を持つ薬物のことを、完璧に隠し通せるものではない。ならば……。あえてその『突出した効果』のウワサを広め、そこに疑わしい『尾ひれ』を付け加えることで。『作り話がいつの間にか、実在するもののように語られることになった』と、人々が認識すること――つまり、実在することへの『疑問』を抱くような効果を、狙ったのではないかと思います」
橋本のこの考えに、俺は内心「さすがだな」と感心していた。実在を完全に隠蔽出来ないと踏んで、その実在を疑わしいものに思わせるため、あえて尾ひれを付けた情報を拡散させた……。それは十二分に「あり得る」ことだと俺には思えた。だが俺には少しだけ、橋本の話に疑問点が残っていた。それは日野も同じだったようで、俺より先に日野が「なるほど、君のいうことはわかる。しかし……」と、橋本に質問を投げかけた。
「しかし、そんなウワサを意図的に広げたとして。じゃあ、SEXtasyを作ってウワサを広げたのは、どんな連中なんだ? 法案施行後の混乱期に、そんなことが出来る奴らなんて……」
日野はそこまで言って、自分で「はっ」と気付いた。
「そんなことの出来る奴ら、とは……。『政府筋』の関係者ってことか?」
日野の言葉に、橋本は大きく頷いた。
「はい。その可能性が、一番高いのではないかと思います」
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