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「これまで味わったことのない快感」という謳い文句は、SEXtasyに対する興味、関心、そして「手に入れたい」という願望を人々が抱くに持って来いだった。これまで誰も味わったことがないということは、すなわち「誰もそれについて、具体的に説明出来ない」ということなのだから。人々はそれぞれの頭の中で、それぞれの抱く「最高の快楽」を思い描き、それをSEXtasyというまだ見ぬ偶像に重ね合わせたのである。SEXtasyは、何もかもが不確実になった時代に、人々が唯一「夢を委ねる」ことが出来るものだった。
「ほんとにそんなものがあるんだったら、さ。死ぬまでに一度くらいは、味わってみたいよね。……史郎もそう思わない?」
カオリは、自分の体をもうほとんど俺の体にしなだれかけるようにしながら、そう問いかけて来た。まるで骨格を失くしたフニャフニャのゴム人形のようになったカオリの様子から見ると、いま口にしてることなど明日になれば、いや数時間後にはもう忘れてるだろうと思い、「ああ、そうだな」と、俺は適当に調子を合わせておいた。明日「シラフ」の時に会ったら、「え? 昨日も史郎に会ったっんだっけ?」と言われてもおかしくないくらい、こういう時のカオリの記憶は頼りないものだった。
だが、なぜかこの時の記憶だけは、カオリはしっかりと残していた。次の日、シラフのカオリは、俺にある男を紹介した。
「史郎、昨日言ってた、『例のブツ』のこと。この人が、見つけてくれるかもしれないんだ」
これが、俺とSEXtasyを巡って巻き起こることになる、壮絶な物語の始まりだった。
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