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そんな俺のかすかな感慨に、一切関心を示さぬまま。橋本は俺の目の前で、持参した黒いスーツケーツを「かちゃり」と開けた。
「こちらが、普段私が扱っている商品です。すでに山下さんにはお見せしていますが、片山さんにも一度確認して頂いた方が宜しいかと思いまして」
普段から「カオリ」「史郎」と呼び合っているので、山下さんとか片山さんとか言われると、何か他人のような気がしてしまうが。俺は「ああ、それじゃあ……」と腰をかがめ、床に置かれたスーツケースの中身に手を差し伸べた。
色とりどりの錠剤や白い粉末が収められたビニールシートは、清潔感を保つようきちんと密閉され、ぱっと見てどんな品揃えなのかがすぐわかるように配置されており、橋本という男の几帳面さを表していた。俺はその中で、真ん中よりやや下に置かれた、ほのかなピンク色をした錠剤を取りあげた。
「……さすが、お目が高い。最初にそれを選ばれるとは……」
それは決して俺に対するおべんちゃらではなく、俺の「見る目の確かさ」を評価した言葉だろうと思えた。そして俺はその言葉で、初めて見るこの薄ピンク色の錠剤が、恐らく橋本が持ってきた中で一番高価なブツであろうことを再認識していた。
まず、橋本の几帳面さがひと目でわかる、スーツケース内のブツの配列。この配列が、「意図しないもの」であるはずがない。つまり、この配列は単に綺麗に見せるためだけのものではなく、橋本の確かな意図が込められているということになる。ならば、その「意図」とは何か。
橋本が見た目通りに「優れたブツの営業マン」であるならば、それに見合うだけの利益を上げているのは間違いない。それは、客に「より良いもの」を提供するのが最大の目的ではなく、「より利益を上げられるもの」を提供することを目的とし、実践してきたということだ。
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