第1章 繁華街での出会い

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 狭い部屋の中央をダブルベッドが占拠している。そこに青年を横向きに寝かせると風呂場からバスタオルを持ち出し彼の足の間に挟む。 「体勢は辛くないか?」 「は、はい……」  ふぅふぅと息を整えながら汗を滲ませている。歩いたせいで更に負荷がかかったのだろう。雅はモモから預かった保冷剤をフェイスタオルで巻いて患部に当てる。 「本当に痛かったら言ってくれ」  下準備もそこそこに臀部にタオルをかけて手のひらでさする。腕の良い整体師は触っただけである程度、身体の状態が分かると言われているが、雅も例外ではない。 「尻がだいぶ張ってるな。それに足も」  一通り手のひらでさすった後、臀部にある腰痛に効くポイントをゆっくりと指で押し込んだ。 「ゔっ」 「痛いよな。でもすぐ楽になるから」  青年は冷や汗をかきながらも必死に耐えている。グッグッと的確にポイントを押し込むたびに青年の口から唸り声が漏れた。だがここで手を緩めては改善は出来ない。筋肉の反応を見ながらさすったり指で押したりを何度も繰り返す。 「しかしすごい張りだ。これだと元々腰が辛かったんじゃないのか?」 「そ、そう……っす。で、でも助けてもらったから」 「モモちゃんに?」 「はい。俺、ここら辺初めてで……駅までの場所が分からなくなって。それであの人に道を丁寧に教えてもらったんすよ。だから、お礼に」 「恩を返すのはいいことだが、自分の状態も見極めないとな」  世間話をしているうちに段々と臀部や足回りの張りが取れてきた。グッグッとツボに押し込んで深層部の筋肉にアプローチしていく。 「反対側向けるか?」  一通り施術をして反対側に向かせる。寝返りを打つのも大変だろう。雅のアシストでゆっくりと反対側へ体勢を変える。施術を続けながら雅は改めて青年の身体を見つめた。  おそらく筋肉のつき方からして力仕事なのは間違いない。身体も現場作業員などに見られる疲れの出方をしている。 「差し支えない範囲で構わないが……君は仕事は力仕事?」 「そうっす。工事現場で働いてます」 「重いものを持つことが多いのか? それとも長時間同じ体制を取っていたりする?」 「重いものも持ちますし、同じ体勢も多いっすね。電気の配線とかやってるんで……ってかやばくないっすか? エスパー? なんで俺の仕事分かったんすか?」  施術で痛みも取れてきたのか青年は先ほどより口数も多くなってきた。強張っていた顔つきもいくらか穏やかになっている。時折、施術の痛みに顔を顰めるも先ほどまでの苦しげな反応はない。 「まず、腕が張っている。まさに職人の腕の疲れ方だ。それから背中の過緊張。この強張りは無茶な体制を長時間取っているからだろう。身体の状態は口ほどにものを言う……手のひらで触れればそこから何もかも伝わってくるんだ」 「すげぇ……ゴッドハンドじゃないすか」 「まぁ、これで稼いでるから」  あくまでも施術家として当然の処置をしているだけだが、こうして褒められて悪い気はしない。 「しかし身体の状態が酷いな。君はまだ若いだろう。そんなに過酷な仕事量なのか?」 「俺、家出たばかりで……日雇いの現場仕事でなんとか食い繋いでるんすけど、今はネカフェ暮らしなんすよ。だから早く家も借りたくて。朝晩通しで働いてるんすよね」 「通りで休まる暇もないわけだ」  どうやら彼も色々とワケありらしい。この身体の様子からしても納得出来た。ネットカフェでの寝泊まりでは十分な休息も取れないだろう。あまり深くも聞く気はないが「少しでも楽にしてやりたい」という同情心が湧いてきた。施術する指にも力が篭もる。 「よし、これで一度様子を見よう。起き上がれるか?」  一通り施術を終え青年を立ち上がらせる。青年はベットに手をついて体重を支えながらもゆっくりと立ち上がった。前屈、後屈をして身体の状態を確認させる。 「やばっ、さっきの痛みが嘘みてぇ」 「あくまでも応急処置だ。今後も病院、もしくは整体院にでも行って身体をケアした方がいい。あとはしっかり湯船に浸かることまぁ、状況的に難しいかもしれないが……」 「また、お兄さんにやってもらえたらなぁ」 「ははっ、俺の施術は高くつくよ」 「金はどうにかするし、お礼もしますから」 「そりゃどうも。じゃあ最後にストレッチで締めるから今度は仰向けになってくれ」  施術の効果も如実に出たようで一安心だ。若さ故なのか回復も早い。あとはしっかりと睡眠を取って、十分に身体を休めれば長引くこともないだろう。 「ん?」 「あっ……!」  仰向けになった瞬間。雅と青年は同時に声を上げた。目線は下腹部──大きく主張した逸物に目線がいった。 「うわっ、すんません……」  青年は顔を赤らめて必死に股間部分を手で隠す。施術を受けていて勃起をしてしまう患者は決して珍しくない。雅も何度かこのようなシチュエーションを経験している。勃起している本人は気まずいかもしれないが、施術者側からすればあまり気になることでもない。  だが、しかし──青年のモノは明らかに人よりも大きい。
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