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「お、いい感じだねー」
カメラの音と照明器具の音。何度もフラッシュをたかれて目を閉じてしまう智沙子とは正反対にリィは鋭い視線や甘い視線を投げかけていた。撮影は上手くいっている。
シャワールームに入るとリィ上半身が露わになる。視線が合い、思わず智沙子は目をそらした。
*****
「はい! お疲れ様でしたー!」
「ありがとうございましたー!」
夕刻になり、やっと一通りの撮影が終わった。智沙子も言われた通りに出した全ての小物類を片付け、ほっとする。
きっと今年もまたカレンダーは争奪戦になるんだろう。どのショットも格好良かったから。ワイルドな感じもラフな装いも上手く着こなす。彼の担当になれて本当に良かった。大変だけど、この時ばかりはそう思う。
「ちぃちゃーん、今日はもう帰るの?」
小田が背後から声をかけてきた。
「あ、はい。衣装を香川さんとこに戻してこれからまた……」
言いかけた時、リィがこちらの方へ近づいて来るのが見えた。ドキドキと自然に心拍数が上がる。
「ちぃちゃんは、俺と予定があるんですよ」
低い声で言うリィ。
「はっ?」
下を向いていた智沙子は、おさげをブンっと振り回して顔を上げ、リィの目を見る。
「今度メシに行こうっていったじゃん? 約束覚えてる?」
「あーあ、リィがまたウブな女の子に手を出してるよー」
小田は両手を広げて大袈裟なジェスチャーを示した。
「ち、違いますっ! これは違います! 小田さん、私、今から会社に戻って香川さんと打ち合わせして、衣装の返却もしないといけないんです」
「急がなくてもいいじゃん? てか、小田さんついでに返しといてよ。俺と今からデートだからさ、ちぃちゃんは」
どっしりとリィから肩を組まれて、智沙子は膝を曲げた。重心をかけられて危うく転びそうになる。
「約束したよな? な?」
「ちょ……、強引すぎやしませんか!?」
耳元で囁かれて智沙子は彼の持つ別世界にくらくらした。
「強引が俺のいいとこなの。この世界こうじゃないとやってられないから。マネージャーのオカッチには話通してあるからさ。大丈夫! 行こう!」
「ちょっ……! 小田さん助けてっ!」
半ば引きずられるようにして智沙子はリィの車へと連れていかれた。掴まれた腕が痛い。バイバイしながら見せる小田さんの憐れむような表情が忘れられない……。「バイバイ、智沙子ちゃん。同情するよ」明らかに表情がそう語っていた。
どうしてターゲットになってしまったんだろう!? 私、何かした!?
心の中で智沙子はリィを呪ったのだった。
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