Episode 1

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時間とともにお酒も進み、初めて牛タンのしゃぶしゃぶなるものを頂いた。なんと美味しいものか! 全くクセがなく柔らかい! 智沙子は蕩けそうになる気持ちで幸せ絶好調。リィは、そんな様子をにこやかに見ていた。 リィは、もっと怖い人なのかと思っていた。有名人だし、垣根が高いのかと。 プライドとかあって、こだわりを持っててもっとめんどくさいのかと思ってたけど、案外いい人なんじゃないか。智沙子はすっかりと気分がほぐれていた。 「ね、智沙子ちゃん、次は日本酒いこうよ。どの銘柄がいい?」 ふわりと耳に入る彼のエスコート。 「なんでもいいです。 私、意外といけるんですよ!」 「そうこなくっちゃ! じゃあ、辛口でもいいかな?」 ビールから冷えた日本酒を二人で飲んで、すっかり出来上がった智沙子だった。 高級牛に野菜を巻いていただくと、今日の疲労も取れて、気がつけば饒舌だ。 「あれ? ちぃちゃんは東京出身じゃないの?」 「違いますよー。田舎から来ました! リィさんは絶対に都会っ子でしょ?」 「……うん……俺はずっと東京しか知らない」 「そんな感じします」 ふふふ、と笑ってもう一杯。 そして気が付かぬ間に、目の前にはデザートがきている。 氷の箱に閉じ込められているかのように見えたソレは、ガラスの器に美しく入ったシャーベットだった。口に入れると柚子の爽やかな香りが広がる。 「あー! 美味しいっ!」 「だろ? 来て良かっただろ?」 「リィさんはいつもこんな贅沢してるんですか?」 「……うーん。いつもではないかな。俺はあんまり食べる事に興味無いからな」 「興味が無い?」 「そ。だって時間が勿体ないじゃん?」 そう言って リィは、はあっと嘆息した。 「いつも時間に追われて、人の目を気にしてさ。気を抜ける時がない上に……」 彼から発せられた張りのない声は、初めて聞くものだった。 「手を抜けない」 「……」 「芸能界って一瞬で切り捨てられるからな」 リィの黒い瞳が鈍く光る。 「追い風の時はみんな何も言わないだけでさ」 「リィさんは人気者ですよ」 フォローじゃなく、智沙子は本気でそう言った。 「俺が? そんなの今だけ。この世界、どうやって生き残るかが問題なんだよ」 確かにそうだ。 言われては、智沙子もぐうの音が出ない。 「あの……今日も撮影見てて思いましたけど、他の方とはオーラが違います。リィさんは絶対に生き残ります!」 キッパリそう言うと、智沙子は眉根を上げた。 「ホント? ちぃちゃんが言うならそうなのかな」 「そうですっ!」
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