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「よし、じゃあ行こうか」
「え?」
リィは美しい顔にこれでもかと言うほどの笑みを浮かべ、長い足で立ち上がった。慌ててバッグを取ろうとしてよろめく智沙子の腕を掴んで受け止める―――と、目が合った。
男らしくガッチリとした肩幅。長いまつ毛と意志の強そうな眼。それでいて人形のような彼の容姿に今更ながらハッと息を飲む。
「……ちぃちゃん、今からもっといい所連れて行ってあげるから」
耳元で囁かれる声音。
智沙子は、ふるりと身体が震えた。
これはイケボというのだろうか? 低いけれどソフトで甘い。どこまでいっても男前で、智沙子は自然と顔が赤くなった。
「あ、あの、帰るのではないのですか?」
智沙子は思い切って尋ねる。
「あのさぁ、俺、飲酒運転になるから」
「あ……」
そうか。
確かにお酒を飲んでしまった。
てことは……?
てことは??
「ど、どこに行くんですか?」
そんな声に答えることなく、リィは襖を開けて堂々と出ていった。
「またお待ちしております」
頭を下げて見送る着物姿の女性たち。
会計は?
お金は?
もう払ったの?
智沙子の頭の中はまたクエスチョンマークでいっぱいになった。
「あ、あとで支払うんですか?」
それともツケですか?
訊きたい事が山ほどあるんですけど。
けれどもそれら全てを無視して、リィは外へ出た。灯篭の灯りだけが頼りの暗い細道をぬけて、車道へと出る。時折スピードを上げて走る車の音が耳に入る。そして、信号のある方向へと歩いた。
「こ、これからどこへ?」
「ちぃちゃんがもっと喜ぶところだよ」
含み笑いをして、リィは横断歩道を渡ると、また細道へと入る。
そこには、地下へと続く階段があった。
「ど、どこへ……」
どういう所へ連れていかれるのだろう? 智沙子に少し恐怖心が現れる。引っ張られて、リィの表情が見えない。
無言のまま階段を降りると小さくプレートがかかった黒っぽい扉があった。
【 𝘚𝘦𝘤𝘳𝘦𝘵 R∞M 】
シークレットルーム?
「ここは誰にも内緒の場所なんだよ」
ちょっといたずらっぽく笑って、リィは鉄の扉を開けたのだった。
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