切っ掛け

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切っ掛け

 私がボルダリングを始めたのは小学校六年生の時だった。近所に流れていた川の護岸、その岩壁を登る男の子達の中に、私は居た。他の子達が途中まで登って、進む事も、戻る事も出来なくなり、泣きそうな顔をしているのを尻目に、私はなんの躊躇いもなく、スルスルと壁をよじ登っていった。  なぜ登れないのか、それが私には理解出来なかった。手を掛ける所、足を踏ん張る所、重心の掛け方、そう言った要素を直感的に見極め、思いのままに登る。私にとってそれは何ら難しい事ではなかった。それが普通の事ではなく、特別な能力だと気付かされたのは、少し後の事だ。  子供の頃、私の遊び相手は殆どが男の子だった。女の子が好んでする、おままごとや、お絵かきみたいな事よりも、外を駆け回って遊ぶほうが好きだった。だから競争相手はいつも男の子で、私にとって一番になると言うのは、男女を問わず一番になる事だった。だから、女の子の中で一番でも、男の子に負けたら悔しい。駆けっこだって、木登りだって一番じゃなきゃ嫌だった。  ボルダリングと出会ったのは、家族旅行で遊園地に行った時の事だ。園内にあった子供用のクライミングウォールに挑戦してみた。あっさりと完登出来てしまった。その姿を間近で見ていたスタッフが私の事をやたらと褒め、試しに大人用のウォールにチャレンジしてみないかと言った。  大人用のウォールは子供用とは違って高さは10メートルほどある。それにホールドとホールドの間隔が広いので、小柄な私は少し苦戦した。それでも一度も失敗せずに登り切れた。  この時、担当していたスタッフはスポーツクライミング協会に関与している人だった。そんな偶然も重なって、私は引き寄せられたかのように、この世界に入っていった。
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