君のせいだよ

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こんなにもドキドキしてしまうのは、きっと君のせいだ。 いたずらっ子のように、八重歯を見せて笑う君は僕にいろいろなことを教えてくれる。 俯いていた僕の手を引っ張ってくれる君は、僕の大切な人になっていた。 「いい?たまには、授業をサボるんだよ。イマドキの高校生は一回ぐらい授業サボってるんだからね!」 心臓がバクバクと動いていることが分かる。手にかく汗を握りしめる。 「授業をサボったのは初めてだよ。」 「ふふ、これで一つ世界が広がったでしょ?」 伸びをする彼女は明るい青空とよく似合う。 彼女は、僕にいろいろなことを教えてくれる。 放課後に友達とカフェやファストフード店、カラオケに行くこと。 休日は服を一緒に買いに行くこと。 ゲームセンターに行ってプリクラを撮ること。 二時間目の授業で弁当を早食いすること。 ノートに絵を落書きすること。 今まで考えたこともなかったことを、彼女は僕にたくさん教えてくれた。 それは僕にとっては不思議でとてもワクワクして、ドキドキするものだった。 こんなことをしていると、母さんにバレたらきっと叱られるだろう。そして、彼女と縁を切るように、と悪魔のような顔で笑いかけてくるはずだ。 彼女がいない世界なんて、今の僕にはもう考えられない。だから、この生活は母さんにバレないようにしないといけない。それもドキドキする理由の一つだろうか。 親に隠れてちょっぴり悪いことをする感じ。いや、きっとこれは悪いことじゃない。彼女にとって、これは普通なのだ。僕にとっても、これは楽しいことでしかない。 「たまには息抜きしなきゃダメだよ。」 彼女はクラスのムードメーカーだった。頭はそれほど良くないらしいが、元気で嘘がない性格で教師やクラスメイトから好かれていた。 そんな彼女が、放課後の教室で話しかけてきた時、僕は驚いて持っていたシャーペンを落としてしまった。 勉強をしていた。その日勉強したことの復習と明日やることの予習。これの積み重ねで人は素晴らしくなる、と幼い頃から母さんに言われていたことだった。 僕と彼女以外、誰もいない教室。夕焼けがとても綺麗だったことを覚えている。 「その肩に入った力の抜き方、あたしが教えてあげる。ついでに、世界も広がるよ。」 彼女が楽しそうに笑った。 僕はどうして、彼女が差し伸べた手を掴んだのか覚えていない。 ただ、疲れていたのかもしれない。高校に入ってから、思うように母さんの期待に応えられなくなった。母さんは怒るし、父さんは相変わらず興味がなさそうだし、僕は自分で思っている以上に疲れていたんだと思う。 僕は、彼女の手を無視しなかった自分を褒めてやりたい。 おかげで、今がすごく楽しく感じる。 楽しいことがあると勉強も捗るらしい。 世界がキラキラと輝いて、その中で彼女が眩しいくらい素敵な笑顔で僕を見ている。 すごく、幸せだ。 教科書には書いていないことが、世界にはたくさんある。 僕はそれを知るたびに、こんなにもドキドキする。 「君のせいだよ。」 「ん?」 「・・・・・・ありがとう。」 そう言うと彼女が八重歯を見せて笑う。 僕の心臓はまた高鳴った。
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