お隣の入居者

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 自室に入った僕は、ベッドに寝転び首を左へ振ると、お飾り程度の出窓が目に入り、レースのカーテン越しに、薄っすらと隣家の窓明りが届いて来た。 一年近くも空き家のままだったよな……  ぼんやりと思いながら、脳内で見知ったあの室内を巡ってみた。  そう……あの家は、暫く僕の『秘密基地』だったんだ──  ある日の昼下がり、ほんの思い付きに隣りの門扉を越え、家の周囲をぐるりと巡った僕は、勝手口の鍵が甘く、乱暴に扱えば突破出来そうな事に気付いた。  その日はそれ以上の試みは辞め、日を改めた夜更け、再度『そこ』を訪れた。  草木も眠る丑三つ時──。そんな企みじみたものでは無いけれど、僕を陶酔させるモノが確かにここで生れたのだ。  目論見通り、何度か揺すると勝手口の鍵が開き、余所者の侵入を簡単に赦し、僕は一つの目標を成し遂げた。 『誰も知らない自分だけの空間──』  あの頃の僕はそれだけで満足で、時間の許す限りを『ここ』で過ごした。  CDプレイヤーを持込み、お気に入りのCDを聴いてみたり、寝転びながらスナック菓子をつまんだり……姉も出入りする自室にはとても持ち込め無い、極度に如何わしい本を宝物としてここへ隠し、『掘り出して』は心行くまで愉しんだ。  ここ数ヶ月は学校が忙しく、足を運べずいたのだが…… ──ちょっとだけ……残念だな。  ベッドの上で身悶えた僕は、処分されただろう『僕の痕跡』よりも、自分だけの空間が失われてしまった事を思い、ふっ──と胸に湧いた小さいけれど、深い虚ろのような物を感じた。
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