お隣の入居者

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 変化は、一月にしては妙な暖かさの続く週末に起こった。切っ掛けは、おしゃべりな姉の口を介して僕に届いた噂話だった。 「八幡さんの(ほこら)で、密会してるんだってぇ──」  同級生との電話の会話だろうか……姉との部屋の襖越しに聞き及んだ僕は、姉が冗談めかして口にした『密会』と言う言葉に激しく興味を覚えた。  話の内容を()い摘むと、町外れに在る小さな神社の祠は、神主不在を良い事に、所謂(いわゆる)恋人たちのデートスポットとなって居るとか。  人目の無い祠の中、男女が籠こもれば、自ずと良からぬ想像に辿り着いた僕だった。  で、退屈しのぎにあの日──、僕はふらりと件の『八幡さん』に遣って来た。  神社へ続く形ばかりの参道は、北斜面な所為か先週降った雪が未だ所々積もっていた。  僅かに雪の残った石段を踏みしめながら、『こんな場所で密会も無いだろうに──』と、我ながら馬鹿馬鹿しさに嗤いが漏れた。  それでも十数段の石段を登り切った先、石造りの鳥居を潜ると小さな祠を一目散に目指した。  月明かりを頼りに足元に目を遣ると、泥濘(ぬかるみ)を踏んだ足跡を見付け、途端僕の胸は妖しく騒わめき、静かの闇に抑えて込んでいた蛇が、ムクリ──。と鎌首を()たげるようだった。
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