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最悪のオープニング
「いいですか。絶対に、職場では、絶対に秘密ですからね!!」
閉店後のフロアに二人きり。
必死の忠告をよそに、目の前のオジサンは嬉しそうに何度も私を見返してくる。
「まさか佐伯さんとなんて光栄だなぁ」
ああ、調子狂う……。
誰にも知られたくない秘密を、よりによってこんなオジサンにばれたんだろう。
――違う。秘密を共有することになったんだろう。
閉店後のフロアに、既婚の男性上司と二人きり。もしも小説なら、禁断の関係への展開フラグでそわそわなのに、
「安心して下さい。僕、絶対に秘密は守りますから」
ふにゃり、と眼鏡の奥のつぶらな瞳を緩ませて微笑んできた。どっと体の力が抜ける。呼吸止まるんじゃないかと動揺した自分が馬鹿みたい。
笑顔の横、右手に掲げた携帯電話のモニターからこぼれる青い光が恨めしい。
最悪続きのラストにこんな展開。いや、自分の不注意が悪いんだけど、と項垂れながら思い返す。
あれは今から3時間前、夕方5時のこと――。
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