17人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
確かに、東原店長の私達スタッフへの態度はキツい。
私が異動してきたばかりの頃、今と同じように言い返されて凹んでいると、「マジ、あの店長最悪でしょー?」
と黛先輩と百合ちゃんが気さくに話しかけてくれて、ほっとした。輪の中に入れたことに、ただ安心した。
それから少し後、私が一人で締め作業中に東原店長が戻って来たことがあった。他店舗の見回りをしていたのか、夜遅いのに、疲れもみじんに出さないカリスマ美人店長は、急に、
「ノベルティグッズの管理」
と指さしてこられ、びくりとした。渋谷店のバックヤード、レディースの販促品棚が乱雑なことに気付いて、私が指示なしに整理を始めたのだ。どうしよう、勝手なことして、と身構えると、
「行き届いているおかげでリピーターのお客様から評判がいいわ」
無表情で言い放った。冷たい声色のせいで、褒められているのだと気付いたのは、店長が帰った後だった。
「蒲原さんも、気付いていたんですね」
「ええ、僕も最初は戸惑いましたけどね。それを言ったら、向こうこそ僕みたいな年上部下の扱いに困っていたでしょうけど」
相変わらず笑顔で自虐する蒲原さんは、じきに気付いたと言う。
「自分ぐらいのオジサンにも胸を張ってお洒落をしてほしい、だから本社異動はせず、ショップに立って接客し続けたい」という密やかな想いを、東原店長はしっかり汲んでいた。
「すぐに売り上げにならなくても、懇切丁寧な態度がリピーターをいつか生むから、って言われた時は嬉しかったです。まぁ、もっと分かりにくい言い方でしたけどね。店長は口下手なだけなんですよ」
ふにゃり、と嬉しそうに蒲原さんは笑った。
――実は、情に厚いところがある東原店長の秘密に、私だけが気付いていると思っていたら、蒲原さんもだった。
休憩から戻って来た百合ちゃんが合流すると、黛先輩は一層話を膨らました。
「うわ、ひどーい。うちらのこと何だと思っているんですかねー!」
すぐに百合ちゃんが非難に呼応し、黛先輩は満足そう。
平日の昼間、お客様はなかなかやって来ない。みるみると淀んでいくショップの空気に、また私の胸の傷口がじわじわと開いていく。私は口を閉ざす。
最初のコメントを投稿しよう!