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「佐伯ちゃんさ、店長のことパワハラで訴えて良くない? 私達何なら味方するよー?」
黙ったままカウンターで作業を進めている私を、二人は放っておいてくれなかった。
「……そんな、パワハラって言うほどじゃ」
「駄目だって! こういうのは声上げないとさぁ、こういう腐った会社の体質って直んないんだよ」
「佐伯先輩そうですよー、泣き寝入りしちゃダメですって」
憐れんでいるのに何故か明るい。ゆっくりと浸透してくるトゲトゲしさに、胸の傷がぱっくりと開かれていく。
もう聞きたくない。と、俯きかけた時、メンズエリアが視界に入った。
丸まった背中。
七頭身とスタイルのいい姿は新作シャツが似合っているのに、今日も猫背なのが残念なオジサン。
ふわふわと水槽を泳ぐみたいに歩きながら一人で検品作業を続け、私を心配そうに見つめている。
「あ、あの……、蒲原さん、さっきから一人です……」
気付いたら口を開いていた。
たったそれだけなのに、言い終えた私の心臓はバクバクが止まらない。気付かれないように呼吸を整えていると、何言ってんだこいつ、と黛先輩の顔に書かれている。
すると、私の視線の先を見て分かったのか、ぷっ、と吹き出した。
「あー検品作業ね! いいの、いいの! あの人整理整頓好きみたいだからさー」
「でも蒲原さんがやったら明日になっても終わってなさそうー」
百合ちゃんが悪乗りする。
「そうそう。やってくれるのはいいんだけど、正直、ノロいんだよね。ちゃっちゃとやればいいのに作業効率悪くてさー、ま、だからあの年齢であんなんなんだろうけど」
綺麗にネイルが塗られた手を、邪魔なものを払うみたいに黛先輩が振る。甲高い二人の声がフロアに響き、メンズフロアどころか隣接ショップの店員がこちらを一瞥している。
ぷつん。言葉のトゲが胸の傷口を刺すと同時に、もう一度、私の口がぱっくりと開いた。
「……一緒に作業した方が効率いいと思います、黛先輩」
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