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1. 職場で秘密がばれました?!
フロアにお客さんが増えてきたな、と見回した時、ぶるる、とポケットの中で携帯電話が震えた。
モニターの時計は夕方5時ぴったりを指している。
「佐伯さん、どうかしたの」
ビクリとして振り返れば、東原店長がいつの間にかカウンターに立っていた。ただでさえ通知に動揺しているのに雪女も真っ青な冷たい瞳で射抜かれ、息が止まりそう。
思わず営業スマイルを崩した私を見逃さない。
アパレルブランド〈Sunny"s〉。
“カジュアルなお洒落着で毎日を晴れやかに――”をコンセプトにレディース、メンズ共に展開し、全国の商業施設にショップを構えるチェーンだ。この渋谷店の売上をV字回復させた美人カリスマ店長を仰ぎ見る。
今日もマネキンのように透き通った涼しげな瞳は、愛想ゼロだ。無表情で全く読めない。
「て、店長、その、……3番です」
接客業界で「3番」は「トイレ休憩」。
私は口を何度かぱくぱくさせると、咄嗟に嘘を吐いていた。
「そう」
何事もなかったように頷かれ、拍子抜けする。慌てて私は一礼すると携帯電話を握りしめ、レディース売り場を出て女子トイレへ駆け足で向かう。
個室の扉を閉めたと同時に携帯電話を開き、いつもの青色アイコンをタップした途端、『コンテスト結果』の文字が目に飛び込んできた。
数分前に更新された、震える手でゆっくりとスクロールしていく。ずらりと並ぶ作品タイトル、ゆっくりゆっくりと画面を下へ……。
……またか。
がくりと便座の横で項垂れた。
私の別名、〈江崎サリー〉の名前は、画面中どこにも見当たらない。
日夜私が入り浸っている小説投稿サイトでは毎月コンテストが開催され、きまって水曜日夕方五時に結果が発表される。大方の職種は退勤時間に当たるだろうけど、私には思い切りオンタイムだ。
投稿2年目、これにて通算20連敗を更新。あえなく撃沈。
ああ、もはや仕事するHP残量などありません……。
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