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エンディングも秘密も、終わらない
木曜日の朝、従業員用通路を野暮ったい背中がふわふわと歩いていた。声を掛けようとすると、蒲原さんが振り返る。
「佐伯さん。おめでとうございます」
おはようございます、の代わりに告げられる。
昨日も水曜日夕方5時に、小説コンテストの結果が発表された。
休日出勤で振替休日をとっていたおかげで、トイレの個室ではなく外出先の本屋さんで私は通知を受け取った。
江崎サリーの名前の上に〈準大賞〉の文字が並んでいた。初めて冠したエンブレム、胸の奥がこそばゆくなるほど眩しかった。
「……ありがとうございます、フグちゃん」
「完結した時は僕含め、みんな連載レスになりましたからねぇ。……でも意外でした、ヒロインが結ばれなくて」
「あれ、残念だったんですか?」
「フィクションの中くらいは結ばれたかったですねぇ」
意地悪な表情で見つめてくる。円らな瞳は相変わらず読めない。
ああ、もう、調子狂う。でも、そんな変な人と一緒にいるのが心地良い。
フィクションじゃない現実で、私達は結ばれない。
これは恋じゃなかった。
恋とは違う両思い。
2人だけの秘密を抱えて、今日も職場で私達は働く。トゲトゲのない丸くて柔らかな空気が私と蒲原さんの間に流れていく。
.。o○
了
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