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旦那が連れてきた尾崎なる青年は身体の先が細い眼鏡をかけた、いかにも好青年、という感じだった。
旦那とテーブルを挟み、とりあえずのビールを乾杯していた。
私は用意していた料理をテーブルに運ぶ為キッチンにいた。カウンター越しに二人の顔はよく見えた。
「ごめんなさい、ほんと、有り合わせで。」
私は一品一品テーブルの上に並べる。
「ほんとだよ、急に会社を出た俺の腕を掴んで、家お邪魔していいですかっ!ってすがり付くんだからさ、ビックリしたよ。どっかのテレビ番組かと思ったわ。」
旦那が思い出し笑いをしながら空腹なのか、早速料理に手を伸ばす。
「いや、ほんとすいません。川崎主任にはほんと仕事ではお世話になってるんですけど、なんか、こう、プライベートを外に出さないというか、もうちょっとお近づきになってもいい頃合いでしょ?
ゴルフとか、休日とか何されてるんですか?全然皆と行きたがらないし。飲みは接待だけで、スッと帰っちゃうし。」
尾崎が少し甘えた様な口調で旦那に言う。
「だからって、待ち伏せするか?まぁ、いいけど。」
旦那はケラケラ笑っている。
「ま、確かに付き合いは悪いかもな。でも、仕事には支障をきたしてないし、俺にはサクッと帰ってやる事があるんだ、休日もな。」
旦那は尾崎をにやりと見つめる。そして、私に目をやる。
「確かに、、主任まだまだ新婚さんでしたよね。僕はまだ結婚とか考えてないですけど、確かに家に帰ってこんなに可愛い奥さんあいてくれたら真っ直ぐ帰っちゃいますよね。」
尾崎は私を品定めする様に上から下までざっと見た。
話題の中心になりつつあるであろう私は身の置き場がなくて、自分のコーヒーを挽くのに視線を外し専念した。
「だろーーーっ?可愛いだろ、うちの奥さん!」
旦那は私を誉められて嬉しい様で何だか得意げだ。
「もうっ、そんな話やめてよ。困る。」
流石にこれ以上突っ込まれると私は恥ずかしいやら困惑するしかない。やんわりと会話の内容を静止しようとする。
私は自分のコーヒーを淹れ、邪魔をしてもならないと思い、リビングの更に奥にあるソファーで本を読んでいた。
「雪美。まだビールってある?」
旦那が冷蔵庫の中を見ながら言った。
「冷えてるのはもうないかも、、箱にはまだあるけど、、」
思った以上のピッチで飲んでいる。
でも、まだ旦那は大丈夫そう、という事は客が沢山飲んだのであろう。
「主任!いいですよ。僕もう、、」
やった!お開き?ツマミももうないし、実はそろそろ帰って欲しい。と私は思っていた。
「じゃじゃーん!そういう事もあろうかと僕は焼酎を持ってきています!ちょっとキッチン借りますね。えっと、グラスと、、氷っと。」
尾崎は得意げに袋に入っていた芋焼酎を大きく掲げた後、いそいそと水割り作りにキッチンへ行った。
嘘ぉ、まだ続くのーー?
私はキッチンで水割りを作っている尾崎を少し見て、リビングテーブルにいる旦那に耳打ちをしに行った。
「もうダメだよ、孝則も明日仕事だよ?結構飲んでるし。」
旦那は
「大丈夫、大丈夫。明日はファイルを纏めるだけの簡単な仕事だし、こうやってさ、部下がなついてきてくれる、有難いじゃないか。たまには、な?」
上機嫌である。
作り立ての一杯を無下に断る事も出来ないし、如何せん当事者二人が楽しそうである。
「奥さんも、一杯どうです?」
尾崎がキッチンから勧めてくる。
「いえ、私お酒飲めないんです、、すいません、誘って頂いたのに、、、」
私は丁寧に頭を下げる。
「あ、そうだったんですか、これは失礼しました。」
尾崎は肩をすくめながら、出来上がった焼酎の水割りを両手に抱え戻ってきた。
「え?何で俺が芋焼酎好きなの知ってんの?」
旦那は嬉しそうに渡されたグラスをしげしげと見つめる。
「歓迎会の時、ビールの後めっちゃ注文してたじゃないですか、覚えてないんですか?」
尾崎は対面に座り直しながら言った。
「え?そんな事覚えててくれたんだ?何か、気を使わせちゃったかなぁ、、」
申し訳なさそうな顔をしながらも、旦那は嬉しそうだ。
「では、気を取り直して、主任と奥さんにかんぱーい!」
尾崎は高々とグラスを揚げる。
「奥さんは関係ないだろ、欲しがってもやんねーぞ。」
旦那は乾杯の振りをしてにやにやと酒に口をつける。
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