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ある大学のある講義。 スクリーンに映し出されていたのは、哲学者フィリッパ・ルース・フットが提唱した【トロッコ問題】の図だった。 「それではこの問題について5分程討論をしてください」 大学教授の指示が講義室に響くと学生たちは互いに意見を交換しながら話し合いを始める。 ある4人グループの1人である平田瞳は一番最初に口を開いた。 「これって答えを出すには難しいよね。だって、1人を助けたらその人の命は他の5人より価値があるって言ってるようなものだし、だからと言って数が多いって理由だけで5人を助けるわけにもいかないし」 「でもこういうのってー、誰かにもよるよね」 瞳の隣に座る亜美はそう意見した。 「まぁ分からなくもないけど、命の価値っていうのは平等であるべきだと思うんだよね」 「ん~。そういう言い方されたらあれだけど。やっぱり、友達や彼氏とか知ってる人がいたらそっちの方を助けるかなー」 「じゃあ、亜美がレバーを握る人なら俺は縛られても平気だな」 亜美の前に座る晴樹がそう言った。 「もし晴樹が1人のところに縛られてたら迷わず5人を助けるかな」 「たしかに晴樹が1人のとこにいたらこの問題も簡単だ」 晴樹に対し亜美が冗談を飛ばす。そして晴樹の隣で瞳の前に座る徹はそれに乗っかった。 「おいおい、聞いたか瞳? こいつらにとって俺の価値は低いらしいぜ」 「でもまぁ、晴樹なら……ね?」 振られた瞳もそのノリに乗っかった。 「お前らひでーな! もう絶交だ」 そして4人は一斉に笑い出し、案の定、教授に怒られた。
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