【恐怖】

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【恐怖】

 不吉な羽音が静まり返った部屋に響いた。地の底から湧き起こったような、空気を震わせるその音。  ――蜂だ。  人間なら誰もが本能的な危険を感じる、遺伝子に組み込まれた恐怖。  よりによってこんなときに――。 「キャー!蜂!?」 「うわっ、スズメバチじゃないか?」 「ちょっと、やだ、無理!」  その会場にいた人たちが慌てふためく。  あたしだって一緒になって逃げたいけど、ここから……壇上から離れるわけにはいかない。身を屈めて頭を手で守るのが精いっぱいだった。  新商品のプレゼンテーションを今まさに行おうとしていたところだった。  会場の本社会議室には50人ほどの招待客や、報道関係者が集まっていたが、一匹の蜂でこの騒ぎだ。  身に迫る危機に、心臓がバクバクいっている。いつ、こっちに向かって飛んでくるか。  怖い。マジで、怖い。  あたし、子供のころなんかの蜂に刺されてるし。  二回目はヤバいって言うし。  それでも必死に大きな講演台の脇にしゃがみこんでいると、一人の勇者が手に持っていた新商品のパンフレットで巨大な蜂に立ち向かった。  バンバンと、格闘する音が繰り返された。  我がチームのメンバーが夜なべして作ったパンフレットのおかげで、どうにか危険な蜂は始末された。  小さく拍手が起こり、やれやれといった雰囲気で各々が元居た席に戻りだす。
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