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やっとの思いで改札口を通り抜け、ホームに行くと人が一気に減った。
「帰宅ラッシュ時にぶつかっちゃったね〜」そう言う彼女の目はまだ眠たげだった。
電車に乗り、またしばらく揺られる。ガタンゴトン、ガタンゴトンと。
それが心地良かったのか、彼女は再び寝始めた。
「これ、椿さん着いたらまたはしゃぎそう」
「明日、しぃ〜」口元に人差し指を軽く置いてにこりと兄は笑った。兄のこの色気漂う微笑を見たら多くの女性は陥落しそうだな
それから幾分経った時兄が口を開いた。
「明日君」いつも以上に優しい声で僕の名を呼んだ。
「どうしたの?未来兄さん」
「今日、楽しかった?」
「うん、楽しかった」
「なら、良かった」と窓の外の移り変わる風景を眺めながら呟くように言った。
「僕は」上手く言葉に出来るか分からないけれど勇気を出してやや震えた声で言った。
「ずっと外に出たことが無くて、季節の移ろいはいつも縁側から見る庭の景色しか見たことがなかった。『外』の風景は映像や写真からしか見たことがなかった。だけど今日、電車やバスに乗って向日葵畑を観て凄く感動した。
だから改めて、ありがとう、未来兄さん」兄は一瞬目を見はった後慈愛のこもった微笑みで軽く僕の頭を撫でた。
その手つきが優しくて愛おしく思った。
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