兄との思い出(弟視点)一

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 目的地に着き、まだ眠たげにしている彼女の手を引いて、駅の出口へと向かう。 駅の外に出ると涼しい風が頰に触れた。  駅が無人駅だったから察しはしていたけど内陸部に来るとは思わなかった。 桜京では平野で殆ど山なんて見えないがここは建物のすぐ後ろくらいまで山が迫っている。 「すごいね〜」 「うん、すごい」  兄が先頭に経って宿に到着した。 ガラガラと引き戸を開けて中に入る。 「わぁ、桜京じゃ中々見れないね〜こういうの」と言って彼女は目をキラキラと輝かせて木造の建物の中をまじまじと眺める。  奥から女将さんが現れたので兄が二言三言交わした。 「いらっしゃいませ、どうぞ、お上がり下さい」と人懐っこい笑みで女将さんが言ったので、靴を脱ぎ中に入る。  天井は低く180cmもあるかないかくらいだ。兄は天井にぶつけないように頭を下に下げて前に進む。突き当たりを左に曲がり、これまた急な階段の横を通る。そこを右に曲がると向かって右側に洗面所とお風呂場があり、その横に男女別のトイレが二つあった。 また段差があり、下に下りると和室が二部屋あり、襖で仕切るタイプだ。そこを両方とも使う。 テレビが一台あり、四角いちゃぶ台が奥と前に一つずつ、二つ合わせて広さは16畳程。  部屋に入るといくらか涼しく感じる。軽量化が進んでいたので大して重くない荷物を兄と僕と彼女の順で端の方に置き、座る。
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