兄との思い出(弟視点)一

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 しばらくの間バスに揺られながら僕は本を読み、兄は電子端末で恐らくあの人に向けてメールを書いていた。 「次は終点、中宮ノ浜駅(なかみやのはまえき)前です」と機械音声のアナウンスが流れ、彼女を揺すって起こす。 「わぁ、ごめん寝てた〜」目をごしごしと擦りながら彼女はややかすれ気味の声で言った。 「ううん、大丈夫だよ。僕も寝てた」 「ありもしない嘘を言っちゃって〜可愛いな、明日君〜」多分彼女の可愛いの意味には優しいや気遣いが入ってるんだなと思う。 「椿さんの明日以外に言う可愛いはよく分からないけれど明日については激しく同感するよ」兄は首を縦に大きく振った。なんなんだこの謎の絆は、とか思いつつも好意を向けられるのは悪いことでは無いので優しい眼で見守る。  バスから降りると先程とはガヤガヤと騒がしく、至る所に人が居る。そして陽の光が消え空は黒いベールに覆われた。代わりに至る所にネオンカラーの看板や街灯など人口の光が煌々としている。 「地方中枢都市とは言え桜京(おうきょう)に負けず劣らず人がごった返してるね」 「明日君、絶対はぐれないようにね」しっかりと彼女に手を繋がれ、駅の中に入る。 駅の中は相変わらず人がいる。兄が先頭に立ち人並みを避けてその後ろを僕と彼女が押されないように歩く。
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