兄との思い出(弟視点)一

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兄との思い出(弟視点)一

 昔、僕には兄が居た。兄はいつも僕に優しかった。 兄は何か話を聞かせてと僕が我儘を言うと嫌な顔をせずにむしろ嬉しそうな顔をして話し始める。 話の内容は世界に広く知られている童話だった時もある、けれどその逆もあって狭く伝えられている伝説だった時もあった。 まるで本当に経験したかのような口調をして語るのがとても好きでいつも安心していた。 昼間に今日の夜何か話を聴かせてとお願いすると夜にこっそりと兄が布団の中に潜って来て少しだけワクワクした。 「明日、今日は何の話が聴きたい?」小声で兄はそう囁いた。 「未来兄さん、今日は歴史が良い」この頃の自分はまだ外の世界も知らずにいつも仏頂面で言っていたなと今にして思う。 「良いよ、じゃあちょっと西に行った先にある国の話をしようか」例えるならば砂糖のように甘い顔をして兄ははにかんだ。  面白く且つ分かりやすく兄は語り始める。その綺麗な語り声で寝てしまうことがある。すると寝そうになっている僕の耳元で「おやすみ」と兄は囁いた。その声が堪らなく愛おしかった。
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